右クリック禁止でサイトが得るもの・失うもの

先日自分のはてなブックマークで右クリック禁止ネタにコメントを付けて、今更ながら「右クリック禁止って何だろう」と考える機会が生まれました。

一般的に右クリック禁止は嫌われていますし、今ではほとんど見なくなったように思えます。また、FirefoxやOperaではデフォルトでそういう動作がしないような設定になっていますし、Web全体から見ればそんな制限をかけているのはほんのごく一部でしょう。

とはいえ、未だにこういう話が出てくるというのは、「右クリック禁止」の需要が現在でもそれなりに存在するということです。自分もサイト管理者の一人として、「右クリック禁止」についてちょっと整理してみたいと思いました。

Webサイトで右クリックを禁止した場合、そのサイトにはどんなメリットとデメリットがあるのか? そもそも右クリック禁止自体にどんな意味があるのか?ちょっと真面目に考えてみました。

右クリック禁止 傾向と対策

そもそもなぜ右クリックを禁止するのか?

サイト運営者が右クリック禁止のスクリプトを導入するとき、それは一体何のためにおこなっているのでしょうか?右クリックを禁止するということは、要するに通常マウスの右ボタンを押したときに表示される「コンテキストメニュー」を使わせたくないということでしょう。

一般的な考え方として、それは主に「ソースを見られたくない」「画像を保存されたくない」という目的を持っているようです。

 ネット上でソースや画像をパクられてしまうコトが多発しています。それの対策として一般的には「右クリック禁止」が採られているのですがそれにはいくつかの穴がありますよ、そしてそんなことやっても無駄ですよ、という話です。

右クリック禁止についてとソースの覗き方 (同人用語の基礎知識)

現在はWindowsユーザーがパソコンを使っているユーザーの90%以上(うちのアクセスログでは94%)以上なので右クリックを禁止すれはかなり、ダウンロードされたくない画像などを守る効果はあると思います。

右クリック禁止 (素材共同組合)

ソースを見られる→ソースを盗用される。
文章をコピーされる→転載される。

右クリック禁止教 (はてな匿名ダイアリー)

ではコンテキストメニューを表示されないようにして、実際に盗用・転載に効果があるのでしょうか?(無断ダウンロード禁止みたいな珍妙な理論は話題にしません。ブラウザでアクセスした時点でダウンロードしてますから。)

右クリック禁止は盗用・転載の防止に繋がらない

結論から述べてしまえば、右クリックを禁止しても効果はほぼない、もしくは極めて薄いといわざるをえません。

まず根本的な問題として、右クリック禁止の動作はJavaScriptでおこなわれています。ブラウザの設定からJavaScriptをOFFにすることで一切制御はできなくなります。

また、コンテキストメニューに用意されている機能は他のところから呼び出すことができます。例えばそのページのソースを表示したい場合、IEとOperaなら「Ctrl+F3」、Firefoxなら「Ctrl+U」ですぐに呼び出せます。(IE7だとCtrl+F3が機能せず。ショートカットキーが変わったのかも。)そもそもキーボードショートカットを知らなくても、メニューの「表示」にそのままの機能があります。

では画像の方はどうかといえば、これも簡単に保存できます。上記の手順でソースから画像のURLを調べればいいですし、もっと簡単なのは画像を直接ブラウザからエクスプローラなどにドラッグ&ドロップする方法です。(ブラウザからの直接D&DはIEとFirefoxが可能。Operaは不可。)

私がWebから画像をローカルに保存する場合、少数なら直接D&Dをしていますが、多めの時はFirefoxの拡張の「DownThemAll!」を使っています。これはFirefoxのメニューバーに登録してあり、当然右クリックする必要なく保存できます。ソースと同じように、画像も特に問題なく保存できるのですね。

ただ、まったく効果がないなら話題にもならないでしょうから、効果がある人もいるのでしょう。それは上記のような手段がわからない、思いつかないようなPCやブラウザの操作にかなり疎い方々、ということになると思われます。

そもそも右クリック=無断転載ではない

右クリックは何のために存在するか?

上記では右クリック禁止で盗用の防止に繋がるかもしれないという前提で話を進めましたが、そもそも私はこの部分に異論があります。ブラウザ上で右クリックをおこなうと、なぜそれが盗用・無断転載に繋がるのでしょうか?私にはそれが理解できません

右クリックで表示されるコンテキストメニューには、上記のソースを表示したり保存したりする以外に、「進む」「戻る」「更新」など様々な機能が存在します。また、マウスジェスチャ機能などにも当然使われます。

個人によって目的は違うでしょうが、右ボタンはそれらの動作のどれかをおこなうためにクリックされたのでしょう。当然、Webマスターにはそこをうかがい知ることはできません。

右クリックは別に画像やソースを保存するためだけに存在しているわけではないのです

また、百歩譲って右クリックが確実に画像保存やソースの表示に使われたとして、なぜそれが盗用・転載に即座に結びつくのでしょうか?

私はWeb上で良くソースを見ます。これは別に盗作をするためではなく、リンク先の正確なタイトルをコピーしてエントリに貼り付けるためです。サイト名を間違えたりするのは失礼ですし、見にくい・打ちにくいサイト名やページタイトルは無数に存在しますから、コピーする方が確実なのです。このような使い方も駄目なのでしょうか?

「飲酒運転は車が原因」という仮説

今更いうまでもなく、盗用・無断転載はやってはいけません。Web上のデータはコピーが簡単ですから、他人が作成したものをあたかも自分が作ったように見せかける困った人もいるでしょう。

しかし、その原因はどこにあるのでしょうか?

どんな道具を使って悪さをするにしても、実際にそれをおこなうのは人間です。盗用を責めるにしても、それはやった本人に対しておこなうべきであり、ブラウザや右クリックを責めるのはお門違いではないでしょうか?

作品が盗用された→保存できる右クリックが原因だ→右クリックを禁止しよう」。あくまで想像ですが、右クリック禁止に至る思考過程はこのようなものなのかもしれません。

しかし、私は上記のような考え方には賛同できません。例えるなら「飲酒運転が起こるのは車が原因だ」といっているのと同じように思えるからです。

意志を持ち、酒を飲んだ後に車を運転するのはあくまで人間です。車が勝手に飲酒運転するわけじゃありません。

盗用だって同じではないですか?例え右クリックで保存した画像が盗用されても、それは盗用した本人に問題があるわけで、右クリックが盗用したわけではないのです。

ましてや実際に右クリックで保存したかどうかも不明なのですから。

結局はWebマスターのバランス感覚次第

Webサイトを閲覧しているとき、もしコンテキストメニューを開こうと右クリックをしてこんな表示がされたらどう思うでしょうか?

盗用・盗作・無断転載絶対禁止!!

私なら最初はちょっと驚いて、そのあと少し腹を立てるかもしれません。なぜ右クリックをしただけで、盗人呼ばわりされなきゃならないのかと。盗む気満々な人にのみ表示されるならいいかもしれませんが、残念ながらJavaScriptに盗作用の右クリックのみを検出する機能はないのです。

前出のとおり、右クリック禁止で盗用を防ぐことは不可能です。

防げる場合もあるかもしれませんが、それは盗用を企む輩が「右クリック以外の保存法を知らない初心者で、すぐ諦めてくれる」という状態でないと駄目でしょう。右クリック禁止の具体的なメリットはこの程度だと思います。

それではデメリットはどうでしょうか?

まず、ある程度操作に慣れている悪意ある人には効果がありません。それにそのサイトを見に来ている圧倒的多数の「盗作する気が毛頭ない」人のユーザビリティを低下させ、マウス操作を妨害します。それでも見続けてくれる我慢強い人が多ければいいでしょうが、正直なところ人を減らすことはあっても、増えることはないと思えます。

それでも、「右クリック禁止」を導入するかどうかはWebマスター(管理者)の考え方次第でしょう。メリットとデメリットを天秤にかけ、「導入する価値がある」と考えれば実行するのはWebマスターの自由です。

私にはデメリットが大きすぎてメリットがほとんどないように見えますが、これはあくまで個人的な考えにすぎません。天秤にかけた結果はその人の「バランス感覚」で大きく変わってしまいますから。