「コード決済」は進化か退化か。自分でQRコードをスキャンして初めて実感できた“存在意義”

Origami Pay

 2018年末に巻き起こった「PayPay祭り」からこれまで、決済や小売り界隈では「コード決済」の話で持ちきりだ。祭りの発端となった「PayPay」はもちろん、比較的メジャーな一群である「LINE Pay」「楽天Pay」「d払い」「Origami Pay」など多くの企業が独自のコード決済アプリをリリースし、その手の話題に詳しい方面でも把握しきれるのか怪しいほど種類は増え、大小様々なキャンペーン合戦がおこなわれている。
 これを書いている2019年現在も、d払いが7月いっぱいまで還元率が20%を超えるキャンペーンを開催中だが、そういったブームに乗ることができる人は嬉しい反面、さすがに食傷気味という空気も流れているようだ。

 だが、そういった“還元”の話を別にするとこのコード決済、自分も含めて使い勝手に関しては、結構不満に感じている人は多いのではないだろうか。(キャンペーン中の)還元率を除けば、タッチで決済が終わるEdyやSuicaといったおサイフケータイ(Felica)に利便性は大きく劣り、サーバや回線が混んでいたり、スマートフォンに表示されたコードが上手く読み込めなかったりすると、決済自体ができなくなるという弱点もあるからだ。実際にPayPay祭りの最中には、大規模な障害が起こって決済できないという問題も何度か発生していて、自分自身も以下のような投稿をTwitterにしたことがある。

 「Felicaに比べて技術的には退化見えるし、いまさら何の意味があるの?」と思っていたコード決済なのだが、実は先日その認識が結構変わることがあった。それはある薬局で「ユーザースキャン」タイプの支払いをしたこと。「技術的に中途半端で遅くて面倒な決済」から「なるほど、これは未来感あるな!」と180度近くイメージが変化し、自分でもちょっと驚いたぐらいだ。具体的に“何を未来と感じたのか”をちょっと語ってみたい。

「スマホひとつで決済」ができることは、何が凄いのか

 まず上でも少し触れたが、スマートフォンを使うコード決済には、大きく分けて2種類の支払い方法がある。
 ひとつは、店舗側が客のスマートフォン画面に表示されたバーコード / QRコードを、コードリーダーやカメラで読み込んで決済をおこなう「ストアスキャン方式」。もう一つは、客側が店舗側に用意されたQRコードをスマートフォンのカメラで読み込んで、金額を入力した後に決済をおこなう「ユーザースキャン方式」だ。

 自分がコード決済を色々と利用してみた限りは、特に大手やチェーン店だと、前者のストアスキャン方式の方がかなり優勢という感じだ。手順自体は、POSレジで直接バーコードを読むか、iPadやスマートフォンでQRコードを読むかという違いがあり、それによって決済速度にはだいぶ差があるが(当然、端末を持ち出してQRコードを読む方が遅い)、基本的には「店員や店舗の端末任せ」というのがストアスキャン方式の特徴だ。

コード決済の「ストアスキャン」と「ユーザースキャン」
コード決済の「ユーザースキャン方式」と「ストアスキャン方式」。一般的には後者の方がよく見かけるのではないだろうか。「バーコードを使ったスマホ決済サービス「PayPay」、ソフトバンクとヤフーが開始 - ねとらぼ」より引用

 感覚的にはバーコードリーダーがレジに直結しておらず、「店舗のタブレットを使うコード決済」は“ハズレ”という感覚が強い。バックヤードからタブレットを持ってきたり、店員の金額入力 → カメラ撮影という流れがスムーズに進まないことが結構あって、客としてはレジで手持ちぶさたで待つ時間が何となく居心地が悪かったりするからだ。客は棒立ちでも決済は終わる反面、速度と信頼性にどうしても劣るので、コード決済におけるストアスキャン方式は「単なるFelicaの劣化サービス」というのが個人的な認識となっている。

 一方ユーザースキャンは自分の経験では、一番最初のPayPay祭りの時にビックカメラで店員に教えられながらおこなった以降は、まったくと言っていいほど使う機会がなかった。結構色々な店舗でコード決済をおこなったのだが、大手のチェーン店は前述のようにバーコードスキャンだったし、それ以外でも大概は店舗側の端末を使うストアスキャンとなっていて、自ら金額を入力した記憶は全然ない。
 なのでコード決済を活用していても、決済アプリにカメラの使用を許可しなくても何の不都合もなく、考えることは「いかに店員にスムーズにバーコードを読んでもらえるか」ということだけだった。はっきり言ってしまうと、電子マネーやクレジットカードを使わずにコード決済を使っていたのは、単に「還元率が高い」というそれだけの理由だったわけだ。

 だが、先日立ち寄った薬局はPayPayを導入したばかりだったのもあるのか、“完全なユーザースキャン方式”だった。何が“完全”かと言えば、そもそも店舗には前述のiPadのような端末すらなく、紙に印刷されたQRコードが無造作にレジの横に貼り付けてあるだけだったからだ。自分がPayPayで支払う旨を伝えると、店員は旧式のレジから手を離し「じゃそのバーコードを使ってください」といって、その紙を指さした。
 ユーザースキャンを体験するのは久しぶりだったので、iPadが出てくるパターンでないのに驚きながらも「おお、久しぶりにPayアプリでカメラを使える!」と微妙にテンションが上がりながら、「QRコードの撮影 → 金額入力 → 店員に金額を見せて確認させる → 送金する」という流れをこなした。特に問題なくあっさりと決済は終了し、後はレシートをもらい店を後にした。

 自分がこの決済方法が結構凄いものであることに気がついたのは、少し時間が経ってからのことだ。POSレジにせよiPadにせよ、ストアスキャン方式では「店舗に立派なレジやハイテク端末が用意されている」のが常だ。そして電子マネーにせよクレジットカードにせよ、店舗はそれに対応する端末を用意しなければいけないし、決済ための契約もおこなわなければいけない。「電子決済をおこなうためには、決済用の(恐らくそれなりに高額な)機器が必要だし、店舗にはそれがあって当たり前」という、気がつくまで意識したこともない先入観があったのだ。

 ところがこの「ユーザースキャン方式」はどうだろうか?はっきり言ってしまうと店舗にあるのは貼り付けてあった紙一枚で、(スタンドアロンなレジはあったが)“ハイテクレジ”や“高価な端末”などどこにもなかった。決済に必要な一切合切を「客のスマートフォンに丸投げ」することによって、結果的には最新鋭のレジを用意した大手のチェーン店と同じことができているわけだ。今まで数え切れないほどコード決済をしてきたのに、“これは凄いことなのでは?”と感じたのはこれが初めてだった。
 もちろん、実はこういったメリットは前々から語られていたし、知識としては「海外で露天に貼り付けられたQRコード」なども知ってはいた。だが、“ただ知っている”のと“実際に体験する”には大きな隔たりがあって、こういったコード決済の凄さや存在意義の一端が理解できたのは、実際に店頭の厚紙一枚でユーザースキャン支払いを体験できたからだ。恐らくこの薬局に立ち寄らなければ、これを理解できたのはさらに後になっただろうし、こういったユーザースキャンの支払いをする機会がそう多くないのは、日本がすでにかなりインフラが整っている国だから、というのもあるだろう。

個人商店でのバーコード決済用QRコード
レジが見当たらないような小規模店舗で、バーコード決済用のQRコードが置いてある様子。「wemedia.ifeng.com」より引用

 前述のように、コンビニのような大型チェーン店で立派なレジや端末が用意されており、かつ電子マネーなどの多数の決済が自由自在に選べる関係上、コード決済は「ただの数ある支払い方法の1つ」だ。客にとっては決済が遅くて面倒な方という現実は変わらないだろうし、ほぼ間違いなくFelicaを使った方が早くて確実だ。
 その一方、高機能なPOSレジがとても用意できない小さい個人商店だったり、(電波が届く)露天のような場所でこそ、コード決済は本領を発揮する。こちらがスマートフォンさえ持っていれば、後は店頭にQRコードさえ貼っておけば電子決済できるし、Origami Payやd払いのようなクレジットカード経由で支払うタイプなら、間接的にクレジット支払いにも対応するということになり、さらに直接カードを出したりする必要もないので安全だ。

 現在コード決済サービスは乱立状態になり、新しいものが出るたび「○○に対応してないのか」と(自分も含め)言ってしまうことが多い。が、それは冷静に考えれば「キャンペーンに乗れない」というだけで、多くはコード決済自体が必要な場所ではないように思う。なぜなら真っ先に名前が出てくるような大手の小売りグループは、そもそも他の支払い方法だって十分に充実していて、特定のコード決済が使えなくても困るシチュエーション自体があまりないからだ。
 今回はまだ普通の薬局だったので、次はニュースで流れた中国の映像のように「現金のみどころかまともなレジすらないが、目の前に貼ってあるQRコードの撮影して、青空の下で簡単に電子(クレジットカード)決済する」を体験してみたい。