
2018年12月、ついにBSで4Kの実用放送が始まった。ネット配信やYoutubeなどの動画サービスを除けば、「コンテンツがない」といわれ続けていた4Kテレビも、チューナーを接続すればついに「普通に4K動画を見られる」環境が整ったことになる。また、一部のメーカーはすでに2018年の時点で、先行して4Kチューナーを搭載したテレビを発売しており、2019年のモデルではそれが“当たり前”になっていくはずだ。映像業界においては、やっと本当に4K時代が来たと言えるだろう。
翻ってゲーム業界の4K環境を考えてみると、2016年にはPS4 Pro、そして2017年にはXbox One Xが発売されており、これらを4Kテレビやディスプレイに繋げば、4K環境でゲームを楽しむことができる。またPCでももちろん4K対応は可能で、十分な性能を持ったGPUとCPUが搭載されたハイエンドのマシンなら、4K環境でゲームを楽しむことができるはずだ。
とはいえ、現実的には多くのユーザーの環境では「4Kはまだ先の話」だろう。コンテンツがない状態で割高な4Kテレビを選んだ人はそう多くないだろうし、PS4の次世代機ではなくアッパーバージョンのPS4 Proの4Kは、いわゆる「疑似4K」ともいわれている。また、PCだと本格的にストレスなく4Kゲーミングを楽しむには、上述のようにとてもお手軽に買えるとは言えないハイエンドゲーミングマシンが必要で、そんな環境を整えられる人はそう多くないはずだ。
つまり多くの人にとって、「4K環境はこれから用意するもの」と言ってもいいだろう。
さて、そんな状態で気になるのが「具体的に、これからどういった4K対応機器をそろえるといいのか」だろう。映像・音響業界では4K環境への移行と同時平行する形で、恐らく聞いたことがある人も多いであろう「HDR」や「HDMI 2.1」といった新たな技術や規格が登場し、より高品位な映像や音声が楽しめるようになってきている。現在は4K映像がHDMI端子(とケーブル)で簡単に伝送できるようになっているが、それは「HDMI 2.0」が登場し、それに対応した機器が多く発売されるようになったからだ。
つまり購入するハードの対応規格をきちんとチェックしないと、接続するハード(ゲーム機やゲーム用PC)の性能を十分に生かすことができず、“安物買いの銭失い”になってしまう可能性がある。それを避けるためには「今現在、具体的にどういった規格があって、それに対応していると何ができるのか」(あるいは対応してないと、何ができなくなるのか)を知る必要があるわけだ。
といったわけでこの記事では、フルHD(2K)時代には存在しなかったか、気にする必要がなかった新しい規格に焦点を当て、具体的にどういったもので、どんなバリエーションがあり、何ができるのかについてまとめてみたい。実は自分用の勉強も兼ねているため、不完全な部分も多いかもしれないが、参考になると幸いだ。
「4K」規格は、実は1種類ではない

まず簡単に、肝心の「4K」とは何かについてまとめたい。
4Kとは文字通り、横方向が4000ピクセル前後、そして縦方向が2000ピクセル前後の解像度を持つ映像や画像のことだ。一般的にはフルHDの「1920×1080」の縦横2倍、解像度としては4倍の「4K UHDTV」と呼ばれる「3840×2160」の解像度を指すことがほとんどだが、実はもう一つ「4096×2160」の解像度の「DCI 4K」という規格もある。テレビ放送や映像機器の4Kは前者の「3840×2160」が標準で、基本的には4Kといえばこっちなのだが、映画やカメラ、あるいは一部のプロ向けの機器では後者の「4096×2160」に対応しており、より解像度が高いDCI 4Kを“真の4Kだ”と表現していたりする。
とはいえ、事実上民生用の映像機器では「4K=3840×2160」なので、ほぼ気にする必要はない。予算に相当余裕があって、映画用やプロ用の非常に高い機器を購入するつもりでもなければ、「いちおう4Kにもいくつか規格がある」ということを知っておけば十分だと思われる。
輝度情報(明暗のデータ)を拡張する「HDR」

「HDR」とは「High Dynamic Range」の頭文字で、文字通り機器が再現できるダイナミックレンジ(明るさの幅)を拡大(拡張)したもの。「4K」と並び家電量販店などでも盛んにアピールされているため、目にしたことがある人も多いだろう。うたい文句としては、「暗い部分はより暗く、明るい部分はより明るくはっきりと再現されて、白飛びや黒つぶれが少なくなる」とされている。

HDR大まかにまず、「写真に使われるHDR」と「映像(機器)に使われるHDR」があって、テレビやディスプレイに関しては後者の意味で語られる。前者の写真のHDRが「同時に撮影した複数の画像を使い、明暗のはっきりした写真を合成する」技術なのに比べ、後者のHDRは「表示デバイスの明暗レンジ自体を広げる」というアプローチが取られている。
端的には「HDR対応の表示デバイスは、明暗情報の再現度が高くなり、より現実に近い映像を表示できる」という風に言えるだろう。なお、HDRという概念の普及により、従来のダイナミックレンジは「SDR」(Standard Dynamic Range)と呼ばれるようになっている。
テレビ向けのHDR規格は主に「HDR10(+)」「Dolby Vision」「HLG」
4K以外に重要なアピールポイントになることもあって、テレビで採用されるHDR規格は種類が多く主導するメーカーも違ったりするが、2019年初頭現在の日本のテレビでは主に「HDR10」(「HDR10+」)「Dolby Vision」「HLG」の3種類が採用されている。先に書いておくと、「HDR対応」と書かれている場合は、基本的に「HDR10」に対応していることを指すことが多く、追加で「HLG」が最近の機種だけでなく旧モデルもアップデートで対応していたりする。
残りの「Dolby Vision」はより高性能だが、一部のメーカーでのハイエンド機種での対応にとどまるなど、どちらかといえばメーカーやグレードの差別化に使われている、といった感じだ。
標準的な「HDR10」と拡張規格の「HDR10+」

「HDR10」は、テレビにおけるHDR規格の基本となるものだ。旧来のSDRで100nits(明るさの単位でcd/m2と同じ)だった最高輝度は10000nitsと大幅に拡張されており、さらに色深度は10bitの1024段階で細かく明暗の段階を表現できるようになっている。
ただ実装としては、ディスプレイ側が高級機種でも1000nits程度、実際は400nits~600nits前後の輝度しか持たないハードが多いため、映像コンテンツは1000nitsを上限にするのが標準になっているらしい。
HDR10は、Blu-rayの4K版となる「Ultra HD Blu-ray」で必須の規格として採用されているだけでなく、動画配信のサービスでも利用されており、事実上のデファクトスタンダード規格となっている。「HDR対応テレビ」と書いてあれば、上述のようにこれには確実に対応していると考えればいいだろう。
「HDR10+」はこのHDR10を拡張したもので、伝送する映像信号自体はほぼ同じもの。だが、シーンごとに最大輝度などの「動的メタデータ」(ダイナミックメタデータ)を埋め込むことが可能で、これにより「作品に存在するごく一部の明るいシーンに合わせるため、それ以外のシーンが暗くなる」というHDR10の弱点が改善されるのだ。
これは機能的には後述する「Dolby Vision」と同じで、後追いで弱点を修正した規格とも言えるだろう。映像配信サービスでは、すでにAmazonのプライムビデオが対応を表明している。
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現行のHDRでは、「HDRに設定を変えたら、なぜか画面全体が暗くなり、むしろ見た目が悪くなった」という問題が発生することもあったのだが、HDR10+が主流になれば、こういったこともなくなっていくだろう。ただ、2019年1月時点ではHDR10+の対応製品は、まだほとんど存在しないようだ。
「HDR10」より先進的で高画質な「Dolby Vision」だが、「HDR10+」の登場で追いつかれた部分も

「Dolby Vision」は名称を見てもわかるように、Dolby独自のHDR規格だ。最大輝度は10000nitsとHDR10と同じだが、色深度が12bitに拡張されており、4096段階で明暗の段階を表現することができる。
だがそれより大きな特徴は、シーンごとに輝度を調節できること。方式はメタデータを埋め込む形で後発のHDR10+と同じだが、先発規格だけに、すでに対応機器が普通に発売されているという点が異なる。ただメーカーについてはそこまで多くなく、記事執筆時点ではLGやソニーなどのテレビに搭載されている程度のようだ。
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映像配信サービスではNetflixやプライムビデオが対応しており、Ultra HD Blu-rayでもオプション規格として採用されている。ゲーム機ではPS4 ProがHDR10のみに対応する反面、Xbox Oneが対応を表明しているが、これはゲーム用ではなく動画再生用のアプリのために使われている様子。Dolby Visionに対応したゲームがあるのかは調べてみたが、2019年1月現在ではまだ存在しないようで、もしかしたら映像専用なのかもしれない。
放送向けのHDR規格「HLG」
「HLG」は放送向けのHDR規格で、「Hybrid Log Gamma」の頭文字だ。冒頭でも書いた2018年12月に始まった実用4K放送でも使用されており、HDRに対応しない古めのSDRのテレビとの互換性を重視した仕組みで、「SDRのテレビでは普通に、HDR/HLGに対応したテレビならより美しく」映像が映し出せるようになっている。
完全に放送向けの規格であるためゲーマーには直接的に関係はないが、4Kテレビで放送も楽しむつもりなら、対応しておくに越したことはないだろう。実際に現行放送でも使われている以上、新型ならHDR10+以上に対応が進んでいくものと思われる。
テレビのものとは異なるPC向けディスプレイのHDR規格
テレビでだけでなくPC業界にもHDR化の波は来ており、ディスプレイなどの標準規格を制定しているVESAから、2017年末に「DisplayHDR」という規格が発表された。内容は液晶ディスプレイやノートPC向けのテスト基準となっており、テレビ向けのHDR10やHLGなどと異なって、「明確に製品グレードで分かれた3つの規格」となっている。端的には、末尾の数字が大きいほど高性能という形だ。
PCディスプレイ向けのHDR規格は「DisplayHDR 1000」「DisplayHDR 600」「DisplayHDR 400」の3種類

現在のPCディスプレイ向けのHDR規格は、策定された最初のバージョンである「DisplayHDR version 1.0」に準拠したものになっており、その基準は「DisplayHDR 1000」「DisplayHDR 600」「DisplayHDR 400」の3種類が存在している。テレビ向けの「HDR10」に一見近いようにも見えるが、実際はHDR10のサポートを最低限のレベルとした上で、規格の名称がそのままディスプレイの性能を表すようになっている。
対象は前述のようにノートPC(のディスプレイ)も含んでおり、DisplayHDR 1000なら最大輝度が1000ints、DisplayHDR 600は最大輝度が600intsなど、後ろの数字がディスプレイが表示できる最大の明るさを示している。それ以外にも上位の規格になるほど、より広い色域のカバーする必要があったりと、ハイエンドに相応しい性能が要求される。
現在市場にある一般的なSDRディスプレイの輝度は250~300cd/平方m前後だが、DisplayHDRでは規格名から想像できる通り400cd/平方m、600cd/平方m、1,000cd/平方mを最大輝度とする。コントラストの段階を600と1,000に達成できることを保証し、平均の、暗部/明部のコントラスト比は955:1以上を確保させる。
このほか、イメージプロセッシングを10bit、ピクセルドライバを8bitに限定(6bitディザリングは不可)。色域に関しては、ITU-R BT.709およびDCI-P3の両方でテストし、DisplayHDR 400はBT.709カバー率95%以上DisplayHDR 600/1000はBT.709カバー率99%以上/DCI-P3 64カバー率90%以上で合格となる。また、黒から白への輝度レスポンスタイムを8フレーム以下に抑えるとしている。
予算に余裕があるなら、HDR対応のディスプレイやノートPCを買うとき、より上位の規格をサポートする商品を選んでおけば間違いはないだろう。逆に予算がないときは、一番下のグレードだが「DisplayHDR 400」辺りのものを買えば、とりあえずHDRへの対応はクリアできる。
4K時代には音響の規格も変わり「音が上から落ちてくる」ように
映像の規格を指す4Kとは直接関係ないが、同時期にサラウンドの規格も新しいものが登場し、スタンダードになりつつある。今までは「5.1ch」や「7.1ch」など、マルチチャンネルサラウンドが標準であったが、映画のような映像コンテンツでは「オブジェクトオーディオ」と呼ばれる「Dolby Atmos」(ドルビーアトモス)や「DTS:X」の採用が珍しくなくなりつつあり、一部のゲームでも使われるようになっている。
技術的には「あらかじめチャンネルごとに音声をミックス(合成)しておくのではなく、3次元の位置データと音声を別に用意しておき、再生時に機器側でミックスする」というものだが、家庭用の環境に限れば、もっぱら「頭の上(天井)にスピーカーをセットしておき、『上から音が降ってくるのを楽しむ』規格」として考えられていると言ってもいい。要するに「前後左右からだけでなく、上からも音声が再生される」というシステムだ。
- ホームシアターを変える「Dolby Atmos」とは? (1/3) - ITmedia NEWS
- 【プレイバック2015】はじめてのサラウンド以来の衝撃。Dolby Atmosを楽しみ続けた1年 by 鳥居一豊 - AV Watch
ゲームハードとしてはXbox One XがすでにDolby Atmosに対応しており、一部のソフトだが実際にゲームで楽しむことができる。PCでもStarWarsバトルフロントでの対応が少し話題になったりしたが、こちらでの普及はまだまだ進んでいないようだ。またDTS:Xのゲームでの採用はまったく聞かないので、こちらは今のところゲーマーには関係なさそうである。
またいちおうPS4(含むPro)でもDolby Atmosに対応はしているが、これはDolby Atmosの音声が収録されたBlu-rayなどの動画の再生が可能というだけで、対応のゲームが出ているわけではないのは注意したい。
Dolby Atmosでゲームを楽しむには、当然ながらゲーム機とソフトだけではなく再生機側、つまりアンプの対応も必要となる。将来的に「頭の上から『音が降ってくる』ゲームをやりたいぜ!」というゲーマーは、Dolby Atmos対応のアンプ(とチャンネル数分のスピーカー)を買っておきたいところだ。
なお、少し古めの記事で「Windows 10はアップデートでDolby Atmosが標準でサポートされるようになった」と書かれていることがあるが、これは「Dolby Atmos for Headphones」というヘッドフォン向けのバーチャルサラウンド技術だ。簡単にまとめると「2chの(つまり普通の)ヘッドフォンで、立体的なサウンドが楽しめる」というものであり、実際に複数のスピーカーを駆動できるものではなく、また無料で使えるのは体験版で、常用するには1620円を支払わなくてはいけない。
そういったわけで、実際に複数のスピーカーを設置してリアルサラウンドを楽しむ派の人にはあまり関係ないが、逆に「手軽にバーチャルでいいからサラウンドを体験したい」という人は、試してみるのも良さそうだ。
4K時代の隠れた主役は「HDMI 2.1」だ!
HDMI 1.4では帯域の問題で4K映像は30Hz(30fps)までしか対応していなかったHDMIだが、現在はHDMI 2.0が一気に普及しつつあり、4K映像も60Hz(60fps)で伝送できるようになった。PCのディスプレイやビデオカードではDisplayPortの存在感が大きいが、逆にAV機器ではほとんどがHDMIで機器同士を繋ぐようになっており、4KテレビなどにレコーダーやPCを接続したいときにお世話になっている人は多いだろう。
だが、現在は「HDMI 2.1」という規格が最新のものになっており、実際に対応したハードはまだほとんど出ていないものの、これがゲーマーには見逃せないものとなっている。バージョンとしては「0.1」上がっただけで、一般的には「8K対応!」(正確には8Kの60fps以上の映像)が目玉機能とされているが、家庭用では8Kがほど遠い現在では、「それ以外」の機能に注目したい。
テレビとPC、あるいはテレビとAVアンプ(ホームシアター)を接続していた人はわかるかもしれないが、これらは規格の問題から接続しても細かい不満やトラブルが出てくることがたびたびあり、しかもそれは(HDMI規格そのものが原因なので)解決できないでいた。だがそれが、HDMI 2.1の普及で劇的に改善するかもしれないのだ。
それでは注目の機能をそれぞれ見ていこう。
ARCの「時代遅れ」の仕様を一気に解決した「eARC」
自宅のテレビにAVアンプ(ホームシアターシステム)を接続している人なら、恐らく多くの人は「ARC」を使っているだろう。「ARC」とは「Audio Return Channel」の略称で、簡単にまとめると「テレビのHDMI入力に接続されたHDMIケーブル使って、出力側の機器(AVアンプ)に音声データを送る」機能のこと。例えばテレビをAVアンプに繋いで連動する設定しておくと、テレビの音声が自動的にアンプ側のスピーカーから流れるが、これはARC機能を使う場合が多い。ARC機能がない古いテレビとアンプでは、テレビの音声出力を別途別のケーブルを接続してアンプに送る必要があったのだが、ARCを使うとそのケーブルを省略することができたのだ。
ただ、ARCには問題も多かった。特に弱点だったのが、送信できるデータ量が光デジタルケーブル(S/PDIF)と同じで、無圧縮の音声(PCM)だと2chまでしか送れないことで、Dolby DigitalやAACという圧縮技術を使っても、基本的には5.1chまでが限界だった。つまりHDMIで送信できる音声データに比べ、ARCでは送信できるチャンネル数が非常に少なく、また対応フォーマットも古いもの限られていたのだ。
こういったARCの制限で例えばどんな問題が起きるかというと、例えば「マルチチャンネル(5.1ch以上)のサウンドをアンプに送りたいが、AACやDolby Digitalといった圧縮フォーマットを選択(変換)できないときに、テレビには直接接続できないので必ずAVアンプを経由する必要がある」といったことが挙げられる。具体例を挙げれば、PCのHDMI出力をテレビに繋いでゲームを楽しみたい、といったシチュエーションだ。
だが、残念なことにPCをAVアンプ経由でテレビに繋ぐと、色々と不具合が発生することが多い。この辺りの問題は以前記事でまとめたことがあるので、興味がある人は読んでみてほしい。
だが、HDMI 2.1ではARCは「eARC」(Enhanced Audio Return Channel)という規格にアップデートされ、無圧縮の5.1chや7.1chの音声もテレビを経由してそのままAVアンプに送れるようになった。これで映像出力が直接テレビに接続できるため、「PC(ビデオカード)とAVアンプの相性」を気にしなくて済むようになる(はず)。実際の環境が存在しないのでまだ何とも言えないところもあるが、「5.1ch以上のサラウンド環境を用意した上で、PCをテレビに繋いでゲームをプレイする」という人には、福音になる可能性が十分にある。
また、前述のDolby Atmosなども既存のARCでは対応できないので、接続にAVアンプを経由したくない場合は、やはりeARCに対応している必要がある。
ただ、eARCに関してはHDMI 2.1対応の機器でなくてもアップデートでのサポートを公表しているAVアンプもすでにあり、実はHDMI 2.1の専売特許でもないらしい。
というわけでテレビ側の対応も当然必要だが、こと“eARCだけ”ならば、AVアンプはHDMI 2.1対応機器の発売を待たなくても良さそうではある。もちろん、現状で対応しているのは非常に高いハイエンド機種のみ、といった感じなのだが。
NVIDIAの「G-SYNC」やAMD「FreeSync」は不要に?可変フレームレートをサポートする「ERR」の「VRR」に注目
PCゲーマーなら、NVIDIAの「G-SYNC」やAMDの「FreeSync」という規格の名前を聞いたことがある人も多いだろう。これらはディスプレイの書き換え速度(多くは秒間60コマ=60Hz)が、ビデオカードの出力する描画タイミングと合わないことで発生する「テアリング」や「スタッタリング」といった映像の乱れの問題を解決するために作られた技術だ。
だが、これらの機能はビデオカード単体では機能せず、対応するディスプレイを用意しないと機能しない。つまりG-SYNCならGeforceシリーズ、FreeSyncならRadeonシリーズとその対応をうたうディスプレイに接続する必要があるわけだが、実はこれがなかなか容易ではなかった。特にG-SYNCは登場が早かったこともあって、専用基板をディスプレイに搭載する必要があったため、安価な液晶ディスプレイで対応して対応していることはまずなかった。恐らくGeforceを選んだ人でも、使ったことがある人はかなり少ないだろう。
逆にFreeSyncはそんな追加基板は不要だったため、最近は対応したディスプレイがそこそこ目立ってきたものの、Radeon自体のシェアの関係から、これまた恩恵が受けられた人が多かったわけでもない。つまり規格自体はそこそこ前からあったのだが、活用できる環境が整っていなかった、というわけだ。

HDMI 2.1では、そういったリフレッシュレートの機能をつかさどる「ERR」(Enhanced Refresh Rate)という機能カテゴリが追加され、その中でも「VRR」(Variable Refresh Rate)という機能は、文字通り可変リフレッシュレート(フレームレート)をサポートするものになる。技術的には、元々オープン規格だったADMのFreeSyncとほぼ同じものとのことで、これが普及すればG-SYNCやFreeSync対応のディスプレイを買わなくても、テアリングやスタッタリングで乱れる映像を見なくて済むようになる、というわけだ。
とはいえ、当然ながらこれはビデオカード側もVRRに対応する必要があり、現状ではその道筋はよくわからない。何せHDMI 2.1に対応したビデオカードがどこにもないからだ。ただ、前述のようにVRRとFreeSyncはほぼ同じものらしいので、恐らくAMDは早い段階で対応してくるのではないだろうか。
また「HDMI 2.1対応=VRR対応」というわけでもないようで、「HDMI 2.1には対応しているが、VRRには非対応」ということももちろんあり得る。例えば2019年に出るソニーの「A9G」シリーズの有機ELテレビは、VRRなどには対応していないとのこと。
また、HDMIのバージョンはHDMI 2.1となる。ただしHDMI 2.1で追加された機能で対応するのはeARCだけで、そのほかのHFR(High Frame Rate)映像対応や可変リフレッシュレート機能「VRR」、自動低遅延モード「ALLM」などには対応しない。
だが逆に、HDMI 2.1への対応を発表していなくても、実はVRRには対応していることがあったりと、現状はなかなか複雑だ。恐らくしばらくは、きっちりと商品の仕様表をなどをチェックしないといけない時期が続くのではないだろうか。
またサムスンのQLEDテレビ(2018年モデル)も、HDMI 2.1対応は謳っていないものの、VRRとALLMに対応していた。
なおビデオカードではなくゲーム機側の対応だが、Xbox One XはVRRへの対応をすでに発表している。PS4(とくにPRO)などもアップデートで対応すると面白いが、恐らく次のPlayStation(PS5?)では確実に対応してくるのではないだろうか。
機能的には地味だが、あるとちょっと便利な「QMS」と「ALLM」
VRRほど劇的ではないが、その他に対応していると使い勝手が上がりそうなのが「QMS」(Quick Media Switching)と「ALLM」(Auto Low Latency Mode)だ。
QMSはHDMIで接続した機器の設定、特に解像度などを変えると画面が真っ黒になったり機器の動作が不安定になったりする問題が改善され、ほとんどユーザーが気がつかないレベルで切り替えが完了するという機能。普通のAV機器はともかく、PCなどを繋ぐとこういうシチュエーションは良く起こったので、地味ながら嬉しい改善と言える。
ALLMは日本語に直すと「自動低レイテンシー(遅延)モード」になるが、これはHDMIの機能で低遅延を実現するモード……ではなく、ゲーム機などの映像出力機器側から、「(低遅延の)ゲームモードに切り替えしろ」と指示できる機能のことだ。近年のテレビには大概ゲームモードがついており、ゲーム機を接続する場合はそれに設定してることも多いと思うが、その手間が省けるといった感じのものとなる。
当然ながら実際の遅延速度は、テレビ(ハード)側の能力に左右されるし、すでに設定済みの場合は大した意味はないだろうが、「初心者でも設定のし忘れを避けられる」という点では、あって困るものではないという感じだろうか。
2019年は本格的なHDMI 2.1の普及と、eARCだけでない機能の対応に期待
以上、それぞれの機能に関してはかなり簡単にまとめたが、記事執筆時点(2019年1月)の現状を端的にまとめれば「4KテレビのHDMI 2.1の対応待ち」といっていいだろう。
HDRは、業界スタンダードのHDR10は現在でも多くのテレビが対応しているし、放送で使われる以上HLGへの対応も一気に進むだろう。HDR10+やDolby Vision対応機器がほしいなら「もう少し待つべき」といった感じだが、HDR10も含めPCディスプレイの規格であるDisplayHDRの対応機器はすでに普通に発売されているので、こちらの規格でいいなら普通に購入することができる。
前述のように見所が多いHDMI 2.1対応機器は、まだ本当に数えるほどしかなく、また機能的にも一般的にどこまでサポートされるのかは不透明だ。ゲーマー視点では「VRRへの対応は必須」という感じだが、出力機器側も現状ではXbox One Xぐらいしか存在しないため、まだまだ焦る必要もない、といったところだろう。個人的にはGeforceやRadeonといったビデオカード、そしてXbox以外のゲーム機の対応状況をチェックしながら、VRRなどに対応するテレビ待つ予定だ。
サウンド側に関しては「アンプのeARC対応をチェックし、ゲームもDolby Atmosの対応に期待する」といった感じだろう。実は現状の比較的安価なAVアンプでも、多くはDolby Atmosに対応しているため、この辺りは(接続可能なスピーカー数をチェックすれば)あまり気にする必要はない。またeARCへの対応もコストを除けば渋る必要は特にないはずなので、恐らくこれからは一気に対応したAVアンプが増えてくるのではないだろうか。
一方コンテンツ側、つまり今回の記事ではゲーム側のDolby Atmosの対応だが、まだお世辞にもいいとは言えない。対応タイトルはごく一部という感じだ。
とはいえ、現在のゲームが当たり前にサラウンドで収録されているように、ゲーム機(ゲームライブラリ)側ので対応が“当たり前”になれば、自然と対応ソフトばかりになっていくのではないかと、結構楽観視している。
また近藤氏からは、ドルビーアトモスのビデオゲームに導入に関して近況も語られた。映画はもちろん、スポーツやコンサートのライブ配信でも採用例を増やしつつあるというドルビーアトモスだが、ビデオゲームに導入するハードルは、他のコンテンツに比べても高くないという。
その理由を近藤氏は、「そもそもビデオゲームの内部処理では、上下左右の立体的な座標で音を扱っている。ドルビーアトモスも音声に位置情報を持たせてレンダリングするという仕組みのため、親和性が高い」と説明した。
恐らく価格的に“こなれていく”のはまだまだ先だとは思うが、そう遠くない未来に「4K + HDR + 可変フレームレート + Dolby Atmos」でゲームが楽しめる時代が来るだろう。その日が楽しみだ。
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