HDDにインストールしたゲームのロード時間を一気に短くできる「ISRT」を試す

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昨年の6月、AKIBA PC Hotline!に以下の記事が掲載された。要点だけかいつまめば「SSDは速いけど高い。HDDは安いけど遅い。ならSSHDはゲーム用にどう?」という内容だ。SSHDとは、通常のHDDに比べ大容量のフラッシュメモリキャッシュを積んだHDDのことで、SSDよりはもちろん遅いが、アクセスが普通のHDDより速いというメリットがある。

実は自分もゲームPCの部分的なアップグレードを予定していて、より快適にプレイできるように、HDDをSSDかSSHDにする算段を立てていた。なんだかんだいってSSDはまだデータ保存向けとしては単価が高く、心はかなりSSHDに向いていたのだが、ある場所でこの記事に「ISRTを使えばいいのに」と反応している投稿を見かけたのがことの始まりだ。

「ISRT」とは「インテル・スマート・レスポンス・テクノロジー」の略で、一言でまとめれば「SSDをHDDのキャッシュとして使う技術」のことだ。上でリンクした記事でも少し触れられているのだが、「導入の敷居が高い」としてサラッと流されている。

3:SSDキャッシュを使う

安価で大容量なHDDにSSDをキャッシュとして組み合わせる方法。

SSDは小容量(32GB程度)で良いので導入コストは低いが、Z97/H97マザー等がサポートする「iRST」や、Highpoint製『RocketHybrid 1220』といった特定ハードのRAID技術とドライバに依存するため、導入の敷居は意外と高い。

ゲーム1本60GB!大容量ゲーム時代に使う「SSHD」ベンチマークにでない「体感」を試してみた - AKIBA PC Hotline!

実はこのISRT、登場した当時こそ注目を集めたものの、元々はHDDを使ったシステムドライブを高速化する技術だったので、SSDが安価になって普通にシステムドライブに使えるようになってからは、ほとんど話題にならなくなってしまった。実際に検索してみても、出てくるのは多くがZ68マザーボードが発売された2011年のベンチマーク記事で、その後はばったりと単語の出現回数が減っている。後継チップセットであるZ7xやZ8xシリーズといったモデルでも普通にサポートされているのに、もはやいらない技術かのように、すっかり忘れ去られているのだ。

さて、ずいぶんと導入部が長くなってしまったが、そろそろ本題に入りたい。今回、自分のPCでISRTを利用可能な環境を整えたので、「HDDにインストールしたPCゲームのロードが、ISRTでどれだけ速くなったか」をテストしてみた。チェックしたソフトは、記事執筆時点でプレイしている「Fallout 4」のPC版だ。ゲームPCだとシステムはSSDで、データドライブとゲームのインストール先はHDDという環境も多いだろうから、参考になるのではないかと思う。

ISRTを利用するための環境と注意点

実際のテストに入る前に、まず「ISRT」を利用するための環境と注意点をまとめておこう。あくまで簡単に整理しておくだけなので、詳しくは後述するリンク先で確認してほしい。

  • Z68以降のIntelチップセット(Z77、H87、H97など)
  • システムドライブとは別のキャッシュ用SSD1台。ただし最大でも割り当て可能な容量は64GBなので、低容量の物でよい
  • UEFI(BIOS)で、ストレージの設定を(AHCIから)RAIDにしておく。RAIDの設定自体は一切触る必要なし
  • キャッシュ用SSDは、トラブルを避けるために完全に初期化(領域解放)をしておく
  • キャッシュ用のSSDと高速化するHDDは、当然だがIntelチップセットのSATAコネクタに繋いでおく。Marvellなどの追加チップの方では動かないので要確認
  • ISRTには「最速モード」と「拡張モード」があり、前者は読み書きの両方、後者は読み込みのみにキャッシュを使う。データドライブを最速モードにするのはリスクが大きすぎるので、拡張モードに設定する。そもそもゲーム用途では、書き込みが速くなっても意味がない

以上に気をつけてIRST(インテル ラピッド・ストレージ・テクノロジー ドライバー)をインストールして、ISRT(IRSTはソフトの名前で、ISRTは技術の名前。間違えやすいので注意)を利用可能にするだけなので、ここでは詳しく設定方法などについては触れない。具体的な手順などは、以下のリンク先が参考になるはずだ。最新のWindows 10でもIRSTの設定画面は変わらないので、特に問題はないはず。

なお、古いISRTに関する記事だと「システムがHDDでなければ(つまりSSDだと)、ISRTは使えない」と書いてあるのだが、現在はシステムドライブがSSDでも、普通にISRTを使うことができるのでご安心を。

テストを行う環境

実際にテストをおこなうPC環境は以下の通り。

テストする自作PCのスペック
CPUIntel Core i7 4770
M/BASUS H87I-PLUS (Intel H87)
GPUPalit GeForce GTX 970 JetStream (VRAM 4GB)
メモリDDR3 PC1600 16GB (8GB x2)
ストレージSamsung SSD 850 EVO 250GB (システム)
Seagate ST4000DM000 5900rpm 4TB (データ)
Toshiba S6T128NHG5Q 128GB (キャッシュ)
OSWindows 10 Pro 64bit
備考キャッシュの割当量は最大値の64GBで、残りはブランク(非割り当て)

使うソフトは前述の通りFallout 4のPC版で、ゲームを起動してセーブデータをロードし、最初の町であるサンクチュアリの画面が表示されるまでを「テスト1」、そこからダイアモンドシティマーケットへファストトラベルして、同じく画面が表示されるまでを「テスト2」としている。ゲームはすでに数十時間プレイ済みで、サンクチュアリもクラフト要素によりオブジェクトが追加されて、それなりに重くなっている状態だ。

テスト1 (サンクチュアリ)
テスト2 (ダイアモンドシティ)
ロード直後のサンクチュアリと、ファストトラベル後のダイアモンドシティ

テストは最初にHDDのみの環境でロード時間をストップウォッチで計り、その後ISRTをONにして同じデータをロードすることによっておこなった。ロードするセーブデータ自体は同じなので、相対的にどれだけ速くなったかで効果がわかるというわけだ。

Fallout 4のロード時間テスト結果

結果は以下の通りとなった。ISRT OFF時(HDDのみの時)のテスト回数が3回なのは、チェックを繰り返しても誤差程度の差しか現れず、そもそも何度やっても大きな変化が現れる余地(理由)がないためだ。

Fallout 4におけるISRTの効果一覧
-テスト1
(ゲーム開始 → サンクチュアリ)
テスト2
(サンクチュアリ → ダイアモンドシティ)
ISRT OFFISRT ONISRT OFFISRT ON
1回目30.23s35.05s23.35s22.61s
2回目30.60s14.49s23.26s12.92s
3回目29.94s14.15s23.48s13.65s
4回目N/A14.77sN/A13.14s
5回目N/A14.11sN/A12.70s
平均30.26s18.51s23.36s15.01s

端的に、2回目のロード以降は抜群の効果があったといっていいだろう。1回目こそHDDから読み込むため特に変化はないか、または少し遅くなることもあるようだが、2回目からはSSD内にキャッシュが作られるので、半分程度の読み込み時間で終わっている。平均値は初回がHDDの速度と変わらないのでちょっと遅めだが、1回キャッシュが作られるとその後の読み込み時間にほとんど変化はない。

実際にプレイしていてもロード時間が目に見えて減って、実に快適なプレイ環境になった。オープンワールドのゲームでは、同じ地形やキャラクターを読み込むことが多いので、大容量の高速キャッシュが抜群の効果を生むようだ。特に建物の出入りを繰り返すときに大きな効果が現れ、狭いダンジョンなどから広いマップに戻るときの待ち時間が大幅に減る。もうHDDのみの環境には戻れそうにない。

ISRTの利点は「古いSSDを利用して、予算ゼロでストレージが高速化」できること

最後にSSDやSSHDと比べたときの、ISRTの優位性について触れておこう。

当たり前だがSSDは価格が高く、HDDと同じ容量を確保するには相当な予算が必要となってしまう。小さい容量なら最近はずいぶん安くなったが、それでは「容量の残りが少なくなったら、新しいソフトを入れるたびに古いソフトを消す」なんてことをしなくてはいけない。要するに、面倒くさい。

SSHDは容量自体はSSDより多いが、3.5インチタイプでもやはり普通のHDDより高く、2016年2月現在4TBを超えるような容量のモデルはない。キャッシュ容量も8GBまでが一般的で、それ以上のタイプは見当たらない。また、そもそも用意されているモデルが少ないから、選択肢が非常に狭い。

その点、ISRTなら使うSSDとHDDは自由に選べるので、自分の好きな組み合わせで環境を構築することができる。大容量を目指すなら、「6TB HDD+64GBキャッシュ」といったSSHDでは不可能なストレージ環境だって可能だ。もちろん、ゲームはいくらでも入れておけるし、それ以外のデータを入れても高速化される。

とはいえ、実は自分がISRTに一番惹かれたのは、「余ったSSDを利用して予算をほぼゼロに抑えつつ、ゲームの高速化が狙えた」からだ。スペック表にも書いたが、今回利用した東芝のSSDは3年近く前の物で、引退させた後は使い道もなく押し入れにしまわれていた。古くて容量も少ないから、仮に下取りに出しても二束三文。このままにしておけば、いつかの段階で燃えないゴミになっただけだろう。

だが、その「余っていた古いSSD」を、これまた自作PCユーザならまず持っているはずのてきとうなSATAケーブルでPCに繋げば、それだけでHDDのキャッシュとして活用できる。容量は最大でも64GBまでしか割り当てられないから、相当昔のSSDでも問題ない。SSDさえ余っていれば、作業の手間を除けば事実上追加コストはゼロだから、コストパフォーマンスの高さは言うまでもない。そもそも買わなければ始まらないSSDやSSHDとは、比べるべくもないわけだ。

もちろん、弱点はそれなりに多い。SSDが手元に余っていなければ買わなければいけないし、低容量過ぎるタイプは逆にバイト単価が高くなるためお得感は減る。また、最低でもSSDが2台(システムとキャッシュ用)とHDDが1台体制になるので、それを設置するためのスペースと電源が必要だ。事実上、(mSATAやM.2コネクタが空いていれば100%無理ではないが)普通のノートPCで新たに利用するのは不可能に近い。「デスクトップPC(できれば自作やBTOのPC)を使っており、手元に使ってないSSDがあり、それを新たに接続できる」人でないと、恐らくSSDかSSHDを買った方が楽だし得だろう。

ただ、逆にその条件に当てはまる自分のようなPCユーザなら、前述のようにほぼノーコストでゲームを始めHDD内の様々なデータやコンテンツを高速化できる。興味があり、実行できる環境があるなら、試してみるのも悪くはないのではなかろうか。