
メーラーがメールサーバーからメールを受信する方式としては、以前から「POP」(POP3)というプロトコルが使われてきたが、近年は「IMAP」(IMAP4)というプロトコルが使われることも多くなった。たとえば、Gmailのアカウントを最新のThunderbirdで設定すると自動でIMAPになるし、モバイル端末(環境)ならまったく気にすることなく最初からIMAPでメールを使っている場合が多い。後述するが、IMAPはPOPの仕様上の欠点を克服したような存在であるため、最初からIMAPで使っているなら悩むことは特にない。
では、「今POPを使っている人は、わざわざIMAPに乗り換えた方がいい」のだろうか?
メーラーの設定変更は基本的に面倒な行為だし、場合によってはメールの振り分け作業などが再度必要になることもあり得る。ろくなメリットもないのに、「新しいプロトコル」というだけで飛びつける人は少ないだろう。やるからには、何しらの利益や意味がなければしょうがない。
というわけで、実際にメーラーの受信環境をIMAPに完全変更した自分が、「POPからIMAPに変えると何ができて、何が便利になるのか」を整理してみたい。
「POPはメールをローカルだけに置き、IMAPはメールをサーバーだけに置く」という勘違い
POP3とIMAPの違いについては、各所でいろんな書かれ方をされている。主題が何かよって多少の差はあるものの、よくある説明が以下のようなものだ。
- POP3方式
- メールを受信した時点でサーバーからデータを削除し、ローカルでメールを管理する
- 実質的にメールサーバーの役割は、ユーザーがメールを受信するまで、一時的に保存しておく役割しかない
- メールは本文を含め一気に読み込まれるため、読むときのレスポンスがよい
- IMAP方式
- メールをすべてサーバー側に保存しておき、読むときに初めてメールをダウンロードする
- メールはサーバーが管理するため、メールサーバーがローカルの保存フォルダの代替えとなる
- メールを受信しても最初はヘッダしか読み込まないため、本文を読むときのレスポンスが悪い
IMAPの技術的な話としては、ASCII.jpの以下のページなどが詳しいが、両者の違いについては、基本的に上記のような形で語られている。
だが、これらの説明はあまり正しいとは言えない。というのも、「POPでメールを消さずにサーバーに全部残しておくことはできる」し、逆に「IMAPでメールを一気に読み込んでローカルに保存することもできる」からだ。これらは単にメーラーの設定(あるいは仕様)の問題で、受信プロトコルと直接的に関係する話ではない。実際に自分の環境でも、PCのクラッシュによるメールデータ消失リスクを減らすため、POPを使いつつメールはサーバーから一切消さない設定にしていた。

また、IMAPに移行した後も、メールはすべてローカルにも保存するようにして、無駄なレスポンスの低下を避けるようにしている。Thunderbirdの場合は、「同期とディスクの管理」にある「このアカウントのメッセージをこのコンピューターに保存する」のチェックをONにすればいい。

初期設定でゴミ箱や迷惑メール(spam)フォルダのメールはダウンロードしないようになってるので、無駄にローカルのメールボックスを大きくしないですむのは嬉しいところだ。
IMAPを使うメリットは「複数のデバイス(メーラー)でメール環境を完全同期できる」こと
上記のとおり、POPを使おうがIMAPを使おうが、メールの基本的な使い方自体が変わるものではない。では、旧来のPOPからIMAPに変える意味はどこにあるのか……という話になるが、その一番のメリットは「複数のデバイス(メーラー)で、メール環境の同期が可能になる」ことだ。言い方を変えれば、複数の環境でシームレスに同じメール(アドレス)を利用したい場合は、POPからIMAPに変えるしかない(擬似的に似たようなことはPOPでもできるが、かなり面倒)。
具体例を挙げよう。たとえば、あるメールアドレスの受信トレイに次のようなフォルダを作り、メールを管理しているとする。
- example@example.com
- 仕事
- プライベート
- 旅行
- 買い物
- そのほか
POPを使いメインPCでメールを受信し、一通り読んだ後で、手動でメールを「旅行」や「買い物」に振り分けたとする。受信したメールはメインPCのローカルディスク内で管理しているだけだから、別のPCやスマートフォンでは(サーバからメールを消さなければ)新規に同じメールが届く。すべてのメールは未読扱いだし、フォルダ分けまで同じにしたければ、デバイスごとにもう一回同じようにメールを移動させなければいけない。
もちろん、受信直後にメールサービスやメーラーのフィルタを使って特定のフォルダに移動させば、振り分けまでは自動化できる。だが、それでも未読状態で届くことは変わらないし、振り分けミスに気がついて手動で移動させた場合は、当然他のデバイスでも同じようにメールを再度移動させる必要がある。すべてのデバイスは、個別にメールをローカルストレージに入れて管理してるのだから、まあ当たり前と言えば当たり前の現象だ。
しかし、これを解決できるのがIMAPだ。IMAPにおけるメールサーバー(メールボックス)は「単なる受信メールの一時的な保存場所」ではなく、ユーザーのメーラーと常に同期されるようになる。つまり、ユーザーが受信済みのメールに既読・フォルダ移動・削除などの操作をおこなえば、それがそのままサーバー側の受信トレイに反映されるようになるのだ。一言で表せば「メールサーバーにも“受信トレイ”が作られ、メーラーとほぼ一体化する」という感じになるだろうか。
先ほどの例で説明すると、メインPCでメールを読み、手動で「旅行」や「買い物」に移動させたメールは、IMAPなら使っているどのデバイス(PCやスマートフォン)から見てもすでに既読状態になっていて、フォルダ移動も完了している。これはメインPC以外のデバイスからおこなっても同じだ。
具体的な運用方法としては、次のような例が挙げられると思う。
- 朝起きてPCを起動し、メールを受信してフォルダへの振り分けと不要なメールの削除
- 移動中にスマートフォンで重要なメールをチェックしておく
- 職場に着いたらすでに既読や削除済みになったメール以外をチェックする
これらはIMAPなら何も気にせずおこなえるが、POPではそもそも不可能か、仮に似たことをやろうとしてもデバイスごとに設定や作業が必要になってしまう。人によるとは思うが、すでに複数のデバイスで同じメールアドレスを使い倒してる自分としては、POPの環境に戻れない感じになっている。複数のデバイスでメールを同期させたいなら、IMAPを使わない手はない、と言えるだろう。
「1メールアドレス=1デバイス」という環境なら、IMAPのメリットはあまりない
上記のとおり、IMAPを使うメリットは、同じメールアドレスを複数のデバイスで使うときに、メールの同期が簡単におこなえることだ。だが、逆に言えば「デバイスごとにメールアドレスを分ける」という使い方をしている場合は、わざわざPOPからIMAPに切り替えるメリットはあまり(というかほとんど)ない。将来的に別のデバイスでメールを同期させる予定があるならともかく、そうでないなら、無理にIMAPを使う必要はないだろう。
ThunderbirdでメールをPOPからIMAPに切り替えたいときは
今現在POPでメールを受信していて、IMAPに切り替えたい場合、実は簡単な設定変更では移行できない。試してみた限り、Thunderbirdではメールアドレス(サーバー)設定自体を作り直さなければいけないようだ。あくまで推測だが、受信トレイの扱い自体がPOPとIMAPまったく変わってしまうため、うまく対応できないのかもしれない。
簡単な説明になるが、自分は以下のような手順で切り替える(というか環境を設定し直す)ことに成功した。
- 保存しておきたいメールをすべて「ローカルフォルダ」の中の任意のフォルダにコピーしておく
- 「アカウント設定」からIMAPへ移行したいアカウントの設定を消す
(注:この時点で「ローカルフォルダ」にバックアップしていないメールは消えてしまうので、気をつけること!) - 消したメールアカウントを新規にIMAPで登録し直す
(Yahooメールの場合はこちらの設定方法を参照。また、Gmailは自動でIMAPの設定になる) - メールを受信すればIMAP環境に移行完了。振り分け用のフォルダはサイドバーの「受信トレイ」からも作れるが、実際に作成されるのは「送信トレイ」の下の各メールアドレスの中(下)
メールサーバーに大量のメールが残っている場合、受信にかなりの時間がかかるため、時間があるときにやるか、事前にサーバー側のメールを整理(削除)しておくとスムーズに進む。また、メールアカウントが違えばPOPとIMAPの環境は共存できるため、トラブルを防ぐためにも、一気に複数のアカウントに対しては移行作業をしない方がいいだろう。さらに念のため、ThunderbirdのプロファイルごとメールをMozBackupなどでバックアップしておくのをおすすめしたい。
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