
「PCを更新したついでに買ったHDDをレビューしてみる」企画の第二弾は、Seagateの4TB HDD「ST4000DM000」になる。4TB HDDは2~3TBのものに比べ、バイト当たりの単価がまだかなり高いため、一般的にはそれほどメジャーな存在ではない。ところが、その中でもこのST4000DM000は、2万円を余裕で切る最安クラスの価格を発売時から維持しており、他の4TB HDDと比べ手が出しやすい製品になっている。
![]() | Seagate DESKTOP HDD 3.5インチ SATA3.0 4TB 64MBキャッシュ 5900rpm ST4000DM000 |
今回はこの「4TBクラスで最安のHDD」が実際のところどんな製品なのか、チェックしてみたい。
ちなみにHDDレビューの第一弾は以下の記事なので、興味がある方は参照していただきたい。
「ST4000DM000」基本スペック
ST4000DM000のスペックは次の通りになる。(公式サイトへのリンクには「7200」の文字があるが、実際の回転速度は5900rpmで正しい。)
型番 | ST4000DM000 |
---|---|
サイズ | 3.5インチ |
容量 | 4TB(フォーマット後は3.63TB) |
インターフェース | SATA3.0 (SATA 6Gb/s) |
回転速度 | 5900rpm |
キャッシュ | 64MB |
プラッタ | 1TBプラッタディスクx4 |
AFT採用 | ○ |
目につく特徴としてはやはり容量が「4TB」であることと、回転速度が「5900rpm」であることが挙げられるだろう。
容量は3.5インチHDDでは1TBプラッタディスクが珍しくなくなったとはいえ、ドライブ単体で4TBの容量を持つものはまだメジャーではなく、2TB~3TBが主流となっている。2013年7月現在では、4TBの容量が必要だとしてもまだ2TB HDDをふたつ買った方が安いため、コストパフォーマンスの点で避けられることが多いのも普及しない理由のひとつだろう。ただし、物理的にドライブが少ない方が消費電力や設置スペースなどの関係でメリットもあるため、一概に「2TB HDDを2個買えばいい」とは言い切れない。
回転数の方は、他社が7200rpmか5400rpm(あとは例外的に10000rpm)のラインナップで統一しているのに比べ、Seagateは“スピードを損なわない”ことを売り文句にして、以前から5900rpmモデルをラインナップに加えている。以前同じ5900rpmのHDDをレビューしたときは明らかにウェスタンデジタルの5400rpmモデルよりアクセススピードが速く、そのアピールが嘘でないことを確認できた。
その特徴はこのモデルでも失われていないかもチェックしていきたい。
なお、これは最近HDDをレビューするたびに書いているが、容量が2.2TB以上でAFTを採用したモデルであるため、Windows XPや、Vista以降でも32bit版を使用している場合は正常に使えない可能性がある。このあたりの詳しい話は以下の記事を参照して欲しい。
パフォーマンスをベンチマークで調べる……が
早速実際のパフォーマンスをチェックしてみたい。環境はSATA 3.0接続でOSはWindows 7 64bit、使用したベンチマークソフトはCrystalDiskMarkの64bit版だ。

比較対象としてウェスタンデジタルの5400rpmモデルである「WD30EZRX-1TBP」と東芝(HGST)の7200rpmモデルになる「DT01ACA300」の結果を貼り付けると次の通り。


見ればすぐにわかると思われるが、どうにもST4000DM000はかなり奮わない結果に終わってしまっている。7200rpmモデルであるDT01ACA300にかなわないのは当然としても、5400rpmのWD30EZRX-1TBPとほぼ互角の勝負になってしまっているのはどういうことなのか。
最初は測定ミスかと思い、再起動やフォーマットのし直しなど色々試してみたが効果はなく、リード / ライトとも140MB/s台という辺りから変わらない。これでは5400rpmモデルとの間にある500rpmのアドバンテージと、“スピードを損なわない”というかつての売り文句がどこかに行ってしまったかのような印象だ。
どうにも釈然としないので、同じSeagateの5900rpmモデルである「ST2000DL003」とさらに比べてみることにする。

ST2000DL003は667GBプラッタ採用品であるため、さすがに速度の上積みはできていることがうかがえる。しかし、それでも「速い」とは言えず、上昇分も10MB/s程度だ。念のためクラスタサイズを4kから64kに変更して試してみたが、特にスコアに変動は見られなかった。

パフォーマンスがそこまで重要視されないエコモデルとはいえ、スコアが5400rpmモデルと同等ではかなり物足りないとしか言いようがないように思う。ベンチマーク結果に関しては、「残念」という評価になるのではないか。
……と言って終わってしまいたいところなのだが、実は話はここで終わらない。どうもこのST4000DM000は、この状態では本領を発揮していないようなのだ。
パフォーマンスを上げるためには「使い込め!」
実は上で貼り付けたベンチマーク結果は前にあらかじめ取得したものなのだが、この記事を書く前に再度チェックする必要性を感じたため、「使用済み」の状態であるが念のためベンチマークをおこなってみた。すると驚くことに、スコアが目に見えて上昇していた。最初は何らかの不具合かと思って何度もやり直してみたのだが、何度試してもフォーマット直後の状態より良いスコアが表示される。

通常、HDDは使用していくと転送速度が速い外周部分から消費され、遅い内周部分が残っていく。これ(とディスクの断片化など)が原因となって、HDDは「データ使用量が増えると(残量が減ると)速度が落ちる」という現象が起こる。プラッタ密度が上がったり、キャッシュの容量が増えて高速化しても、基本的にこれを避けることはできない。
それが今回、なぜか約30%強使用した状態の方がスコアが上昇してしまった。しかもシーケンシャルアクセスで10MB/sと、あまり誤差とは考えられないような数値になっている。前述のとおりに何度もテストを試みたうえ、最終的にはデータを移動してHDDの再フォーマットからのベンチマークもおこなってみたのだが、結果は「データ使用量が0%になると速度が(使用済み時に比べ)落ちる」というものだった。理由は結局わからずじまいなのだが、このST4000DM000は一定量使い込んだ方が速度が上昇するようだ。
「使用済み」状態でのスコアを考えてみる
使用して“速度が上がった”状態のST4000DM000のスコアを考えると、ほぼスペックどおりの速度が出ているように見える。シーケンシャルアクセスで速度は160MB/s前後となっており、DT01ACA300(7200rpm)とWD30EZRX-1TBP(5400rpm)のちょうど中間に位置する。やはりこの辺りが「本領を発揮したパフォーマンス」ではなかろうか。同じ5900rpmのST2000DL003と比べても、十分な進化を感じる結果だ。
このスコアを基準にするなら、前述の“物足りない”や“残念”という言葉は取り消すべきだろう。謎はもちろん残るが、これならスペックどおりのパフォーマンスを持った製品と評価しても問題ないはずだ。
騒音や発熱などの省エネ性に迫る
ST4000DM000は7200rpmと比べれば速度を落としたいわゆる「省エネモデル」になるため、当然低い発熱量や低騒音が期待される。まずは温度の調査として、CrystalDiskInfoを使って他のHDDと比べてみた。室温は26度、ドライブはそれぞれ左端のCドライブが東芝製のSSD、左隣のDドライブが7200rpmのDT01ACA300、Eドライブが5900rpmの本機、右隣のFドライブが5400rpmのWD30EZRX-1TBPとなっている。

パッと見て驚くのはWD30EZRX-1TBPより温度が低く、SSD並になっていることだろうか。このST4000DM000は1TBプラッタディスクが4枚入っており、他のプラッタが3枚のモデルより明らかに不利なはずで、しかも5400rpmのHDDより回転数も高い。にもかかわらず、7200rpmモデルどころか5400rpmモデルより温度が(1度とはいえ)低いのは驚異的といってもいいだろう。
最初は省エネ機能でディスクの回転が止まっているのかと思いアクセスを集中させてみたが、温度の変化はほぼなく、安定して低い温度を維持している。ドライブの発熱に関してはまったく文句のない出来と考えられそうだ。
騒音については主観になるが、全体的には静音性が高いものの、得意・不得意が分かれるような印象を持った。まず普通に読み書きしているぶんには、「コリコリ」「カリカリ」という音が僅かに聞こえるだけで、まったく気にはならない。だが、不定期にヘッドが移動するような「コロン」という音が聞こえるため、バラック状態ではこれが若干耳についた。
記憶をたどってみると、確か昔の2.5インチHDDはこんな感じの音を立てるものが多かったように思う。ただ、決してうるさいというほどではないし、ケースに入れてしまえばほとんど気にならない程度ではある。最近は手元のHDDでこの手の音を発生させるものがないので、余計気になってしまったのかもしれない。
総評としては、発熱量がプラッタ枚数や回転速度が少ないモデルより低いのは「凄い」としか言いようがなく、この点は特筆に値する。反面、騒音の方は「完璧」といえないため、若干の詰めの甘さを感じるのが残念、といったところだろうか。
若干気になる点もあるが、「大容量」で「まずまずの速度」で「安価」という条件を満たすバランスの取れたHDD
以上、ST4000DM000をチェックしてきたが、「5900rpmで1TBプラッタディスクを採用した(現時点で最大クラスの)大容量HDD」としては順当な性能を持った製品だと感じた。「フォーマット直後に速度が出ない」という不思議な現象をのぞけば、アクセススピードは7200rpm HDDと5400rpm HDDの中間であり、そこそこの速度は出ている。また、同じ5900rpmの回転速度を採用した数年前のモデルであるST2000DL003から見れば、きっちりとスペックアップしてきており、同じSeagate製品からの乗り換えとしても悪くないだろう。
騒音・発熱についてはヘッドの移動音らしきものが少し気になるが、発熱量は抜群に低く、プラッタ枚数が4枚と多いことをまったく感じさせない作りになっている。その“音”についても大概はPCケースかHDDケースに放り込んで使うはずで、ましてや耳元で長時間運用するなんてことはまずないであろうから、相当な静音環境を整えているか、あるいはかなり神経質な人でなければ実用性に影響ないだろうと思う。
しかしそこより重要なのは、やはりこのST4000DM000が4TB HDD中で最安クラスということだろう。2万円を切っているのは当然で、セールならば1万円半ばで購入できることもあるようなので、お得感はかなり高い。コストパフォーマンスとしてはまだ、3TB以下のHDDの方が高いが、「接続しているドライブを少なくしたり整理できる」という点にメリットを感じるなら、決して高い買い物ではないのではなかろうか。
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