「SBC」「AAC」「aptX(HD)」「LDAC」 Bluetoothオーディオを高音質で楽しむためのコーデック入門

CSR時代のaptXロゴ

 「無線で音楽を飛ばす」というとかつてはFMトランスミッターなどがよく使われたが、近年の主流はやはりBluetoothだろう。iPodやウォークマンなどの携帯オーディオ機器やスマートフォン、タブレットなどのデジタルガジェットに加え、最近ではスピーカーやAVアンプ単体でもBluetoothに対応しているものが珍しくなく、音楽を無線で楽しめる環境はどんどん整っている。デバイスを直接ケーブルで繋がなくていい、というのはやっぱり大きな魅力だ。

 ただし、Bluetoothのオーディオ機器には弱点があった。それはある意味で非常に致命的な、無線での送信時に音が相当悪くなってしまうことで、「音質を気にする人は無線(Bluetooth)なんて最初から選ぶな」というのが常識だった。それは商売上どうしても好意的なレビューを書くことが多い商業メディアなどでも、ノイズや音質に関してはそれなりに触れざるを得なかった……というあたりにも現れていた。

 結論から先に書いてしまうと、この「音質の悪化」はBluetoothの規格自体が原因で起こっていたわけではない。言ってみれば「実装」の部分に問題があり、そのせいでBluetoothオーディオの大半に音声の劣化が発生していた。しかし、最近はその部分が改善された商品が販売されており、その部分さえ押さえておけば「劣化が非常に少ないクリアな音声」を聞くことができる環境が整ってきている。
 今回はそのあたりをちょっと整理してみよう。

記述内容が古くなっていたので、2018年3月にタイトル変更&大幅加筆修正。

Bluetoothオーディオはなぜ音質が悪くなってしまうのか

Bluetoothロゴ

 Bluetoothでは、オーディオデータをやりとりするために「A2DP」(Advanced Audio Distribution Profile)という規格(プロファイル)が用意されていて、Bluetooth用のオーディオ機器はこれに対応することで、音楽が再生できるようになっている。だが、Bluetoothは一度に通信可能なデータ量(帯域幅)が大きくないため、この「A2DP」では音声データを送信前にエンコード(圧縮)し、受信機側でデコード(復元)する仕組みとなっている。重要なのはここで使われることになる「コーデック」、つまり「圧縮フォーマット」だ。

 A2DPでは、「SBC」(SubBand Codec)という圧縮方法が規格上必須のコーデックとして定められていて、多くの機器がこれにしか対応しない時代が長く続いていた。問題なのはこのSBCが圧縮の速度や効率を優先したもので、変換後の音質がお世辞にも良くない、というか明らかに悪くなってしまうシチュエーションが非常に多かったことだ。SBC自体のビットレートは規格上、512kbps(384kbpsとの資料もあり)まで認められているものの、実際は製品の仕様や通信環境によってより高い圧縮がかけられていることが一般的で、これが大きな音質の劣化に繋がっていた。

 またコーデックの特性上、特に無音時に「サー」というホワイトノイズが強めに発生するため、これが耳障りに聞こえてなおさら音が悪く感じる、といった現象も発生しがちだった。再生時の遅延も大きく、動画を見ると音声が送れて流れてくるのが気になったり、ゲームプレイ時に使用すると音がズレて実用に耐えないといった声も良く聞かれた。
 SBCはあくまで「音質は二の次で、とにかく安定して音が鳴ること」という接続性が優先された設計になっており、美しい音色を楽しむといったことには向かない方式、とまとめられるだろう。

 ただA2DP自体には、後述するような現在比較的メジャーとなったコーデック以外にも、オプションとして「MP3」や「ATRAC」などの比較的馴染みが深いエンコード方式が使われることもあった。だが、実際はほとんど普及せずに終わってしまっており、恐らくライセンスの問題や圧縮時の負荷など、コストやそれ以外の問題が色々あったものと思われる。

「SBC」より高音質が望める「AAC」と「aptX」シリーズ、そして「LDAC」

 そろそろ本題に入ると、数年前からBluetoothオーディオでも、「SBC」以外の圧縮コーデックが使用できることを売りにするハードが出てくるようになった。前述のようにデータ送信時にSBCで圧縮するから大きく音が劣化してしてしまうわけで、それをもっと高音質・高品位なコーデックに変えればいいという理屈だ。具体的には2018年現在で主流のSBC以外のコーデックは、大きく3つの種類に分かれている。

AAC

 A2DPで使用する以外にも、非常にメジャーで有名なコーデックの1つ。iTunesや各種ポータブルオーディオ機器、デジタル放送などで使われるAACと同じで、同じく超メジャーなMP3よりさらに高音質なのが特徴。再生ソース(音楽ファイル)がAACなら、Bluetoothでの送信時に再度圧縮されることなくそのまま送信をおこなうため「オリジナルのAACからまったく劣化しない」とされている。
 だが、実際の挙動はハード側の実装によるようで、残念ながらAppleのiPhoneでは「着信や通知音をミキシングするため再圧縮している」のが実情のようだ。

音楽再生中に電話を着信したとする。するとユーザーの耳に聞こえてくるのは「再生中の音楽がすっとフェードアウトして着信音がフェードインしてくる」だ。内蔵のイヤホン出力やスピーカーでも外部のBluetoothオーディオでも、これは変わらない。この滑らかな音声処理が、音楽再生と通知音等が内部でミキシングされていることの証だ。

そして音声データのミキシングのためには、データをまずはPCMに復元しなければならない。

~中略~

これは送信側、iPhone側の時点でしか行えない。これはiPhoneに限らず、通知音が欠かせないスマートフォン全般で基本的には共通の話。

 再生側の機器としては主にiOSを採用したAppleのガジェットであるiPodやiPhone、iPadなどが対応している。実際のビットレートは、Appleが情報公開していないため不明。遅延はSBCより少ない場合が多いが、aptXよりは大きいと言われている。

aptX、aptX LL、aptX HD

 「aptX」はかつてはCSR社が展開し、現在はそれを買収したQualcommが提供しているコーデック。A2DPの規格に入っていないが、対応機器同士なら問題なく使用できる。他のコーデックに比べて遅延の少なさも売りにされていて、「動画の再生に使っても音のずれを感じにくい」と言われている。
 圧縮後のビットレートは、サンプリング周波数がCD相当の44.1kHzなら352kbps、48kHzなら384kbpsとそこまで高いわけではないが、SBCとは根本的に異なる圧縮方式が採用されているため、音質にはかなり定評がある。

 機器としては、主にAndroidを採用するスマートフォンやデジタルオーディオプレイヤーが対応しており、Apple系のハードでは、iOS以外のMac OS Xで動作しているPCなどで使用できる。スマートフォンの場合は、Qualcommの「Snapdragon」系のSoCが搭載されていれば、対応している可能性が高い。

aptX Low Latencyロゴ
aptXのバリエーションのひとつ「aptX Low Latency」

 またaptXのバリエーションとして、40ms以下の更なる低遅延を実現した「aptX Low Latency」(以下、aptX LL)が存在しており、一部のトランスミッターやスピーカーが対応している。音ズレが気になるゲームプレイや動画再生に力を発揮する規格となっており、さらに通常のaptXと下位互換も維持しているため、aptX LLに対応しているなら通常のaptX対応機器としても使用することができる。

aptX HDロゴ

 さらに新たな規格として、CDを超える音質のハイレゾに対応した「aptX HD」が登場しており、徐々にだが採用ハードが増えている。ビットレートはサンプリング周波数が44.1kHzで529.2kbps、48kHzで576kbpsとなっており通常のaptXの1.5倍。技術的には、16bitだった量子化ビット数を24bitに拡張したものとのこと。

 当然こちらも下位互換性を持っており、aptX HDに対応していれば通常のaptX機器として使用できる。ただしaptX LLとの直接の互換性はなく、「aptX HDが使えるから、aptX LLが使える」ということはないようだ。

LDAC

LDACロゴ
ソニーが主導する「LDAC」は、現時点では一番オーディオ向きと言われている

 音響機器ではウォークマンで有名なソニーが開発した「LDAC」は、aptX HDと同じくハイレゾ対応をうたうのが特徴だ。A2DPで使用するコーデックとしては非常に新しく、スペック的には一番優れているとされている。

 ビットレートは330kbps(接続優先モード)、660kbps(標準モード)、990kbps(音質優先モード)と3つのモードが用意されており、音質優先ではBluetoothの通信帯域をほぼ限界まで使うような形になっている。当然それだけ高音質が期待できるということになるが、通信状態が悪い場合は正常にデータが送受信できず、再生できなくなる可能性も高まってしまう。主に電波干渉が少ない、自宅などの回線が安定した場所で使うべきモードと言えそうだ。
 なお、ビットレートは高いが、コーデック自体はロスレス(可逆圧縮)ではない。

 ソニーの独自規格であるため、採用機種は主にソニー製品に限られ、選択肢はあまり広くない。また、「ソニーのオーディオ機器なら必ず対応している」というわけでもないのも、互換性を考えると厳しいところだろう。

 ただし、スマートフォンなどのOSであるAndroid 8.0(Android O)では、aptX(aptX HD)などとほぼ同時にオープンソース化されたエンコーダーが標準搭載されるようになったので、少なくとも送信側での対応は進む可能性が高まっている。ただ、デコーダー(受信側)の機器がLDACを採用するには、引き続きソニーへのライセンス料の支払いが必要なのは変わっていない。

AAC / aptX / LDAC を使うためには

 まず前提として、送信(スマートフォンなどの端末側)と受信(Bluetoothヘッドフォンやスピーカーなどの再生側)の両方の機器が、「AAC」「aptX」「LDAC」にそれぞれ対応している必要がある。個々の規格に互換性はないので、「片方がAACに対応していて、もう片方がaptX対応」などではもちろん意味がない。どちらか片方しか対応していない場合、使われるコーデックはプロファイルで必須とされているSBCのみだ。
 なお以下のページによると、例えば逆に両方の機器がAACとaptXに対応しているときには、aptXが優先されるとのこと。

 もうひとつ気をつけなければならないこととして、「Bluetoothの送信コーデックは、端末自体の再生対応フォーマットとは関係ない」という点が挙げられる。特にAACで勘違いしやすいと思うが、例えばウォークマンのような再生機器側でAACファイル形式の音楽が再生できるからといって、Bluetoothの送信コーデックにAACが使えるわけではない。これは再生ファイルの対応形式とは完全に別の機能であって、もしWebページや説明書などの「製品仕様」で対応状態を調べるときは、「Bluetooth」の項目を確認する必要がある。
 具体例を挙げるなら以下のような感じだ。

ポータブルオーディオ機器のBluetoothコーデック対応状況
「ZEN X-Fi3」のコーデック対応状況。青枠で囲まれた“再生フォーマット”としてはAAC(M4A)に対応しているが、赤枠の“Bluetoothの送信コーデック”としてはaptXにしか対応していない

 上のスクリーンショット画像は、クリエイティブのZEN X-Fi3という端末の製品仕様ページからキャプチャして引用したもの。オーディオの再生フォーマットしてはAACなどに対応しているが、BluetoothのコーデックとしてはAACに対応していない。例えばこの場合、再生側のヘッドフォンなどがAACにしか対応していなければ、必ず対応しているSBCで圧縮されて送信されることになるため、音は劣化してしまう。製品仕様のページは慣れないと何が書いてあるのか理解しにくい時があるが、きちんとチェックしておいた方がいいだろう。

 結論としては、新しくBluetoothオーディオ機器を買う予定ならば、なるべく多くの規格をサポートしているものを選んでおけば間違いない。例えそれが無理でも、最低限自分が今持っている音楽再生端末がどのコーデックに対応しているかチェックしておき、その規格にあった機器を選んでおきたいところだ。単に「Bluetooth対応!」という宣伝文句に飛びついてしまうと、痛い目に会ってしまってもおかしくない。

PCで高音質のBluetoothオーディオを楽しむには

 先ほど「MacはaptXコーデックに対応している」と書いたが、Windows環境でも使う方法がある。Windowsマシンの場合は各メーカーが好き勝手にハード構成を決めるため、PCによってBluetoothの有無はもちろん、対応するバージョンやプロファイルも完全にバラバラだが、それなら後付けでUSBのBluetoothアダプター(ドングル)を装着してしまえばいい。

 また別の方法としては、Bluetoothのトランスミッター(送信機)を使う手もある。PC側のアナログライン出力やS/PDIFなどの音声出力端子から有線でトランスミッターに繋ぎ、そこからBluetoothで受信機まで接続する方法だ。こちらはPCに新たなデバイスの追加をする必要がなく、さらに取り外してしまえばPC以外にも使えるという利点がある。

 かつてはほとんど選択肢がなかったaptXやAACの対応機器だが、2018年現在ではラインナップがかなり増えてきているので、自分が使用しているものを含め代表的なものをいくつか紹介する。

USBドングルタイプのBluetoothデバイス

サンワサプライ Bluetooth4.0 USBアダプタ MM-BTUD43
B00HX64XUM

 自分も使用している、aptX対応のBluetoothアダプターとしては定番の商品。通信出力はClass1対応で、規格上は100mまで届くとされている(が、あくまでカタログスペック)。Windows 10が登場する前に発売された比較的古いモデルだが、Windows 10ではOS標準のドライバで動作するので特に問題はなく、USB端子に差し込むだけで使用可能。
 バリエーションとして、Class2に変更され若干サイズが小さくなった「MM-BTUD44」というモデルもある。

 かつてはaptXに加えてもAACにも対応するとして、「ほぼ唯一のaptX / AAC両対応ドングル」として有名だったのだが、現在はAACに対応する旨の記述がなくなっている。仕様変更があったのかもしれない。

Creative Bluetooth Audio USB transceiver 「BT-W2」
B0129O554A

 クリエイティブが発売しているBluetoothオーディオ専用のUSBドングル。aptXはもちろんaptX LLにも対応しているが、特徴的なのは「差し込むとただのUSBサウンド機器として認識・動作するのに、音声データはBluetoothで送信される」という動作をすること。仕組みとしては、差し込んだPCなどのホストからはUSBサウンドデバイスとして動作し、実際に無線にしてデータを飛ばす動作は、USBドングルの内部で完結しておこなわれるようになっているらしい。
 この独特な仕様により、PS4などでも使用可能になっている。

 Bluetooth機能を持つUSBドングル、特にaptXが使用可能なCSRのチップはドライバが不安定なことで有名で、Windows 10で標準対応するまでは、「相性で上手く動作しない」という現象が起こるのも珍しくなかった。そういった状況の解決方法のひとつとして、このような手法が考えられたのだろう。
 結果的に「USBサウンドが動作するハードなら、本体のBluetooth機能の有無に関係なく使える」ようになっており、USBドングルとトランスミッターの中間的な存在と言える、面白いデバイスになっている。

汎用(外付け)タイプのBluetoothトランスミッター

TaoTronics Bluetoothトランスミッター 「TT-BA08」
B01JBTKXHA

 TaoTronicsが発売している、バッテリー内蔵Bluetoothトランスミッター兼レシーバー。スイッチを切り替えることによって、送信機と受信機のどちらとしても使用可能。aptX LLに対応しているが、それはトランスミッターモードの時だけで、レシーバーとしてはSBCにしか対応していない。入出力端子は、アナログのステレオミニプラグのみ。

 上記のレビュー記事を参照して欲しいが、実際に使用しておりサイズのわりにバッテリーも持つため、使い勝手はなかなか良好。価格も若干安いので、送信のみに特化した使い方なら選んでも損はないだろう。

Inateck Bluetooth オーディオレシーバー&トランスミッター 「BR1008」
B078N2P3MF

 Inateckというメーカーの、上記「TT-BA08」と同じくレシーバーとトランスミッターの両方に対応するBluetoothデバイス。aptX HDとaptX LLの両方に対応しているのが大きな特徴だが、レシーバー動作時にはさらにAACにも対応するという万能さが売り。バッテリーを内蔵しており、スペック上は12時間動作するとしている。

 またaptX HDに対応していないが、S/PDIF端子を備えた「BR1005」というモデルもあり、デジタル端子経由で音声をBluetooth化したいなら有力な選択肢となるだろう。ネットでは「テレビの音声をS/PDIF経由で無線化した」という体験談が多いようだ。

 こちらは厚みがあるせいかバッテリーが増量されているようで、カタログスペックでは20時間以上動作するとしている。S/PDIFにあまり興味がなくても、長時間使いたい場合も便利だろうか。

aptX / AAC / LDACの対応製品について

 2018年現在、Bluetoothで使われる「送信コーデック」という存在はかなり知られるようになり、無線イヤホンの一般化やスマートフォンのイヤホンジャックの廃止などにより、aptXやAACといった規格がBluetoothと一緒に良く語られるようになった。それに伴い対応機器もどんどん増えつつあり、数年前とは比べものにならないほど「選べる」状態になっている。この記事を最初に書いた2013年とは、比べものにならない環境だ。

 コーデックもかつては実質上SBC、aptX、AACの3つしかなかったが、現在はハイレゾにも対応したaptX HDやLDACなども登場しており、さらにBluetoothオーディオは盛り上がっている。「無線だから音が悪い」といった認識は、この数年で大きく変わってきたのではないだろうか。今後も更なる技術革新と、対応製品の増加、そして手を出しやすい価格へ下がっていくのを期待したい。