自分が使っている自作PCは中身のM/BはMicro-ATXなのに、ケースはATX用ミドルタワータイプという少々アンバランスな構成になっていた。これは単にPCケースを以前のPCから使い回していたからという理由でからしかなかったのだが、当然中身はスカスカだし、無駄にかさばるという根本的な問題が発生していた。もちろんケース容量が大きいことは冷却やメンテナンスには有利だが、そのためだけにデカブツを使い続けたいとは思えなくなっていた。
最近はどんどん円安も進んでいて、PCパーツは値上がり必至な状態。どうせそう遠くない未来に中身を総取っ替えして組み直すことは決定していたので、先行してPCケースだけ買い替えることにした。購入したのはシルバーストーン(SilverStone)の「SST-TJ08B-E」というMicro-ATX用のミニタワー(マイクロタワー)ケースになる。
![]() | SilverStone Micro ATXケース TEMJINシリーズ 黒 タワー型 SST-TJ08B-EJ |
ちなみに色が黒ではなく銀色(チタニウムカラー)の「SST-TJ08T-E」というカラーバリエーションが存在してどちらにするか少し迷ったのだが、光学ドライブにしろベイ系パーツにしろ今の自作界隈は「黒ケースが標準」になっていることもあり、素直に黒を選んだ。もちろん機能的にはまったく同じなので、実際に買うなら趣味や価格で決めてしまえばいい。
![]() | SilverStone Micro ATXケース TEMJINシリーズ SST-TJ08T-EJ |
実はこの「SST-TJ08B-E」、「Micro-ATXケースを買うぞ」と決めてからかなり色々と検討・比較して悩んでから購入したものだったりする。結果としてどうだったのか、レビューしてみたい。
「SST-TJ08B-E」基本スペック
基本スペックは以下のとおり。
型番 | SST-TJ08B-E (黒) SST-TJ08T-E (銀) |
---|---|
サイズ・重量 | (H)374mm×(W)210mm×(D)385mm 5.3kg(前面アルミニウム・本体スチール) |
対応フォームファクタ | Micro-ATX・Mini-ITX・Mini-DTX |
ベイ数 | 5インチオープンベイ ×2 3.5インチオープンベイ ×1(シャドウベイとしても使用可) 3.5インチシャドウベイ ×4 2.5インチシャドウベイ ×1 |
背面PCI/PCI-Eスロット | 4(約33cm強の長尺カードまで対応) |
ファンスロット | 前面:18cm/14cmファン搭載可能(1200/700rpm切り替え式18cmファン搭載済み) 背面:12cmファン搭載可能 |
フロントパネルポート | USB 3.0 ×2 オーディオ IN/OUT端子 |
電源 | 非搭載(別売り) |
スペック表をざっと眺めると横幅は21cmとそれなりに幅広なものの、縦と奥行きは小さくまとまっているのがわかる。特に奥行きはMicro-ATXでもタワー型では40cm台があまり珍しくない中で、38.5cmに収まっているのは嬉しいところ。また、横幅も無駄に大きくなっているわけではなく、大口径のファンを設置可能にしたと同時に、十分な裏配線のスペースを確保するのに役立っている。
ストレージスペースは5インチベイが2個、3.5インチシャドウベイが4個、SSD用の2.5インチシャドウベイも標準で1個用意されている。さらに最近は省略されがちなオープン3.5インチベイも下部に確保されており、このままシャドウベイとしても使えるため、最大で5台の3.5インチHDDがそのまま搭載可能だ。本格的なものは無理としても、簡単なストレージサーバ的な使い方もできるかもしれない。
最近は省略されがちな3.5インチベイ。カードリーダーやファンコンを搭載したりと、自作ユーザなら意外と出番は多いはず。
PCI-E拡張スロットは4とMicro-ATXケースとしては普通だが、長さ33cm強の長尺カードに対応しているため、ハイエンドのビデオカードも使うことができる。ケースによっては長尺カードへの対応がうたわれているものの、実際使うにはシャドウベイのケージを外す必要があったりするタイプもあるが、SST-TJ08B-Eは普通に前方のスペースが開いている。上記の搭載可能ストレージ数も合わせて、かなりパワフルな環境を構築することも可能だろう。
なお、電源は付属していないため、手持ちのものを使い回したり新たに購入する必要がある。
スペック表ではわかりにくい特徴など
スペック表には出ていないが、このケースで触れないわけにいかない特徴として「マザーボード倒立型」のケースであることが挙げられる。これはM/Bが通常のケースとは上下逆に設置されることを表していて、背面から見ると「IOパネルが下、PCIスロットが上」という配置になっている。これによって代理店のページによれば直線的なエアフロー* が実現されるとうたわれている。
SST-TJ08B-Eの後部写真。真ん中がPCI-Eスロットで右下がバックパネル。通常と上下逆なのがわかる。
それ以外に目を引くのは、やはり前面に搭載済みの18cmファンだろう。これはシルバーストーンが日本では「徹甲弾ファン」と呼んで販売しているもので、高い風量と直進性を誇るとされている。
従来のファンのほとんどは、吸排気量に重点が置かれたものになり、指向性に優れたものはほとんどありませんでした。それに加え、ファンガードも気流を乱す一因となっています。
Air Penetratorファンでは、ファンガードを含めたグリルを統合、さらにグリルの設計を工夫し風が渦を巻くように調整しました。これにより、高い指向性・直進性を実現しています。
SilverStone Air Penetrator SST-AP181|PCパーツ・周辺機器の総合代理店 マスタードシード株式会社
PCケースにおける前面ファンは、「十分なエアフローを得るための吸気」と「ストレージ(HDD)の冷却」の両方の役目を果たす。一般的には吸気ファンより排気ファンの方が重要視されるが、個人的にはここは重要なポイントだと考えている。通常は小さいケースほど中身がギッチリと詰まり、エアフローが悪くなりがちだ。わざわざエアフローを売りにしている「SST-TJ08B-E」は実際のところはどうなのか、この辺も気になったところだった。
そもそも「SST-TJ08B-E」を選んだわけ
ATX用ミドルタワーケースからMicro-ATX用ミニタワーに移行すると決めたものの、その方針としては極めて欲張りな前提を立てていた。それは「すべてを妥協しないでサイズだけ落としたい」というもの。
通常、物理的なサイズが小さくなれば何かを妥協せざるを得ない。わかりやすい例としては「搭載できるストレージの数が減る」「拡張ボードの数やサイズに制限が出る」「エアフローが悪くなりケース温度が上がる」「小さめのファンしか設置できないため、回転数が上がりうるさくなる」などが挙げられる。実際問題として何年も前に買った別マシンのMicro-ATX用のケースは、ストレージが多めのため内部のケーブルがグチャグチャでエアフローの「エ」の字もない状態だ。
ミドルタワーケースに内蔵されていたパーツをすべて組み込み、かつ今後も見越した今回ケース選びで最低限クリアしたかったのは以下の条件だった。
- 5インチベイ2個以上
- 3.5インチシャドウベイ4個以上
- 2.5インチシャドウベイ1個以上(変換が必要なら3.5インチシャドウベイ+1)
- ストレージベイ前に(なるべく大型)ファンが設置でき、HDDを適切に冷やせること
- 標準で吸気ファンにフィルタがついていて、できれば簡単に掃除できること
- かつ静か(静音)ならなお良い
- もちろんケースサイズもそれなりに小さく
他に有力候補として上がっていたものとしてフラクタルデザインのDefine Miniやタオエンタープライズのフォルテッシモセカンドなどがあるのだが、前者はあまりにも奥行きが長く(490mm!)、サイズダウンどころか下手すればミドルタワーより大きいので断念。後者はシャドウベイが「フレームベイ」という特殊な機構になっていて、HDDを前面ファンで直接冷却できないのがネックとなった。Define Miniは静音性を重視したケースらしく、正直なところかなり迷ったのだが、結局は上記の条件をすべて満たせるSST-TJ08B-Eを選んだ。
予算が気になるなら廉価モデル「SST-PS07」を選ぶ手も
SST-TJ08B-Eには下位・廉価タイプの「SST-PS07」というモデルがある。
![]() | SilverStone Micro ATXケース Precisionシリーズ SST-PS07BJ |
![]() | SilverStone Micro-ATXミニタワーケース ホワイト SST-PS07W/A |
基本フレームは変わらないためスペックもほぼ同一なのだが、以下のような違いがある。
- フロントパネルがアルミから扉付きのプラスチックになり、デザインも変更
- フロントファンが18cm×1から12cmファン×2に
- 下部の3.5インチオープンベイがシャドウベイに変更(結果としてオープンな3.5ベイはなしに)
- 5インチベイカバーがワンタッチで外せるように
- 5インチベイを3.5インチベイとして使うための変換マウンタが追加
- カラーバリエーションが銀(チタニウムカラー)から白へ
付属ファンの回転数や扉の有無という点で「静音性ならSST-PS07の方が上」という話をネットでよく見かけたのだが、「オープン3.5インチベイの有無」と「エアフロー」という観点から、結局は上位モデルのSST-TJ08B-Eを選ぶこととなった。ただ、それとフロントデザインを除けば前述のように基本フレームは変わらず値段はこっちの方が安いため、SST-PS07Bを選ぶという選択肢は十分にあると思われる。
後部ファンいらずの「強力なエアフロー」、18cmファンの実力は確か
まずメーカーがM/B倒立デザインを採用してまで売りにしているエアフローからチェックしてみたい。はっきり言うと、これに関しては想像以上だったと言える。
スペックの欄に書いたように、標準搭載されているのは1200/700rpmの強・弱切り替えタイプの18cmファンなのだが、強はもちろんのこと弱の700rpmでもケースの後ろに手をかざすと確かな風を感じることができる。もちろんケース後部のファンは搭載していない状態での話だ。「ケース裏に手を出すと確かに風が流れているが、それはあくまで背面ファンが送り出した風」という一般的なケースとはレベルが違うと言ってもいい。
しかもこれはHDDを3台搭載済みのケージがファンの真ん前にあっての状態であり、もちろんそのHDDはファンの風で冷却されている。通常ファンの風はHDDなど、何らかの障害物に当たると上手く流れないものなのだが、それを気にしなくていいほどの風量が生まれているのだろう。18cmファンを使ったのは初めてなのだが、こんなに強力だとは思ってもみなかった。
18cmの“徹甲弾ファン”は思ったよりもずっと「静音」
風量が強いとなると気になるのは「ファンの騒音」だが、これは確かに「強」の1200rpmでは相当うるさい。「ブオォォォ」というかなり激しい音が発生するので、正直常用するにはかなりの忍耐力か慣れが必要だろう。軸ブレのような音はしないが、ちょっとした空気清浄機か何かと勘違いしてしまいそうだ。
しかしこれは「弱」の700rpmまで回転数を落とせば話は別で、「無音」には遠いが自分としては十分「静音」と言えるレベルだった。もちろん音自体はするが、前のミドルタワーケースに付いていた中途半端な回転速度(恐らく1000~1200rpm程度)の前面12cmファンよりずっと静かで、むしろ「以前のファンはこんなにうるさかったのか!」と思ってしまったほど。前述のように風量的にも十分で、この程度の回転音でこのエアフローが生まれるなら、発生する騒音とのバランスの良さは大したものという印象だ。
背面ファンは付けなくてもよい?
先ほど「背面ファンは付けてない」と書いたが、それは別にテストのためではなくて、元から付けなくていいと判断したため。これはもちろん実際に使ってみて、前面の18cmファンだけで十分な排気があることを確認したからでもあるが、そもそもシルバーストーンの中の人が(同じコンセプトのケースに対して)「背面ファンは装着ない方がよい」と語っているのだ。
リアには120mm口径のファンが取り付け可能となっていますが、普通に使用する場合は装着しない方が良いですね。
(中略)120mmファンをリアに取り付けてしまうと、この資料のように上下でバランスの取れていたエアフローが乱れ、ケース下方向に集中することとなります。フロント吸気のみで内部正圧状態を作り出すのがコンセプトである以上、これはよろしくありません。
引用内の「正圧」については後ほど触れるとして、コメントによるとこの「フロントファンのみで吸排気のバランスを取る」ようなケース(含む「SST-TJ08B-E」)は、不用意に排気ファンを追加しない方がいいようだ。確かにファン非搭載でも十分なエアフローがあるのを実際に自分自身でも確認しているため、これには納得できる。自分には今までの経験上「廃熱のためにケースの背面ファンは必ず付けた方がいい」という先入観があったのだが、それが破壊された記念すべきPCケースと言えるかもしれない。
ちなみに背面ファンが不要ということは、要するにファン数が減り騒音の発生元を減らせるということでもある。これは結果的により静音状態に繋がるとも言えるのではなかろうか。
「正圧」のケースはホコリに強い
「正圧ケース」って何だ
先ほど引用で「正圧」という言葉が出てきたが、現行のシルバーストーン製ケースは多くが「正圧設計」となっている。「正圧」とは「負圧」と対になる言葉で、それぞれ以下のような意味になっている。
- 正圧 - 排気より吸気の量が多いため内部の気圧が高くなり、ケースのすき間や穴から空気が抜け出す
- 負圧 - 吸気より排気の量が多いため内部の気圧が低くなり、ケースのすき間や穴から空気が入り込む
正圧のケースだと何が嬉しいかと言えば、以下のようなメリットがあるとされている。
- 吸気ファン以外の場所から空気が入り込まないため、その部分に防塵フィルタを設置しておけば内部へのホコリの侵入を防げる。
- 一度排気された温風を再度すき間や穴から吸い込まなくて済む。
正圧/負圧のイメージ図。左が正圧で右が負圧。赤矢印で表されている排気量が多いと、ドライブや拡張スロットのすき間から空気(白矢印)が入ってしまう。(上記「正圧とは?」より引用)
一般的な(他社製)PCケースは圧力が考慮されていることはあまりなく、多くは負圧状態のようだ。例え前面と背面に同じサイズのファンを同じ個数取り付けていたとしても、内部吸気の電源ファンが排気過多のエアフローを生んでしまう。結果的に小さなすき間や穴から空気と共にホコリを吸い込み、5インチベイのすき間やフロントパネルの各種ポートにホコリがどんどん詰まっていってしまう……というのはお馴染みの光景だろう。自分が買い替える前に使っていたケースもまさにこの負圧状態だったようで、吸気ファンにはフィルタがあるのにバラした内部はホコリで凄いことになっていた。
正圧+メンテしやすいフィルタ=清潔
このTJ08B-Eは吸気ファンの前に取り外して掃除しやすいフィルタを備えている。取り外し方法は「横にスライドさせる」だけで、ネジなどを外してケースの内部にわざわざアクセスする必要はない。
SST-TJ08B-Eの前面パネルの金属メッシュ部分と防塵フィルタ。後方には18cmの“徹甲弾ファン”が見える。フィルタはスライドさせるだけで左右どちらからでも簡単に引き出せる。
さらに実際に運用してみてわかったのだが、フィルタの前の金属メッシュは比較的目が細かいため、この部分でもホコリをキャッチしているようだ。もちろんホコリの付着によって見栄え自体は良くないものの、図らずも二重フィルタのように機能しているように見える。変な話なのだが、「この(PCを設置している)部屋、こんなにホコリがあったのか」と少し驚いてしまったほど。
しかし逆に5インチベイのすき間などにホコリが溜まっている様子はなく、きれいな状態を保っている。フロントパネル近くに手を近づけるとかなりダイナミックな風の流れを感じるのに、5インチベイ周りが汚れないのは理屈がわかっても不思議に感じる。間違いなくケース内は正圧状態のようだ。
ホコリが溜まりやすい吸気部分のメンテとしては、金属メッシュ部分は掃除機でそのまま吸えばいいし、フィルタは上で書いたようにスライドして取り外してから掃除機で吸うなり、水洗いするなりすればいい。まとめて掃除機でやってしまえば数分もかからないだろう。このお手軽さは素晴らしいし、結果的によりクリーンなPC環境を保ちやすいわけで非常にありがたい。
ただあとでケース内をチェックしてみたところ、フィルタに引っかからないような細かい「チリ」はさすがに入り込んでいた。内部も黒に塗装されているため、このチリはかなり目視しやすい。頻繁にやる必要はないだろうが、たまにはケース内も掃除してやる必要はありそうだ。
エアフローと電源を設置する方向について
このケースは最近としては珍しい電源を上部に設置するタイプで、電源自体は上下両方の好きな向きに固定できる。説明書には(恐らくファン用の開口部が12cmまでしか対応していないため)電源のファンが12cm以上の場合は下向きに設置するのをすすめているが、自分の場合はケース内のエアフローを乱したくなかったため、吸気ファンが上向きになる形で設置した。これで電源は完全に独立したエアフローを保つし、上にはマグネット型のフィルタが標準装備されているため、ホコリも入りにくい。
天板部のファンフィルタ。かなり強力なマグネットでケースに固定されている。
このケースは「電源をどっち向きに付ければいいかわからない」という人が結構いるようなのだが、上記の理由で個人的には上向きをおすすめしておきたい。
小ささと拡張性のトレードオフになった「余裕」のなさ
スペック部分でも書いたのだが、このケースは比較的多くのストレージを積むことができる。自分の環境では今のところ5インチドライブ2台、3.5インチHDD3台、さらに拡張カードとしてビデオカードとサウンドカードを搭載しているのだが、前述のようにエアフローは非常によい。これは裏配線に成功しているからというのもあるだろう。
TJ08B-Eの横幅は21cmとお世辞にも「スリム」とは言えないが、それだけあってマザーボードベースの裏には2cm強程度のスペースが用意されていて、さらにケーブルホールも多数設置されている。実は今まで裏配線というのをやったことがなかったのだが、結束バンド片手に試行錯誤してみたところ、初めてのわりにそこそこきれいに仕上がった。比較対象がないので正確な評価はできないのだが、一番太いATX 24ピンケーブルを通してもまだ少しは余裕がある設計のため、「裏配線入門機」としてもそう悪くないのではという印象を持った。
逆に「余裕がない」のは5インチベイから電源のスペースと、HDDケージ周りだろう。
スペック上は奥行き160mmまでの電源が設置できることになっているのだが、5インチベイを利用しており、かつドライブの奥行きが長い場合はケーブルの干渉が避けられないと感じた。近年はプラグイン電源が流行っており、電源ケーブルの根本の自由がきかないことも多いため、なるべく余裕をみて奥行きの短い電源を選んだ方がよさそうだ。
自分の環境は電源の奥行きが140mmで非プラグイン、光学ドライブの奥行きが170mmと別にクリティカルな状態ではないのだが、それでも「必要以上に余裕がある」とは言いにくい。電源を優先するなら、上部5インチベイを諦めたり、アタッチメント+スリムドライブで奥行きを短くするなどの工夫が必要かもしれない。
さらに干渉が厳しいのはストレージ周りで、以下の画像のHDDケージにHDDを4台、さらに下部3.5インチベイ部分に1台、底面に横向きで2.5インチSSD/HDDが1台搭載可能になっている。(底面の2.5インチドライブはケース裏からネジ止めする。)
SST-TJ08B-Eのシャドウベイ部分。ケージの内側には防振・防音用のウレタンが装備されている。FDD/HDDの刻印がある場所はオープンベイ部分。
このHDDケージはM/Bの一部分に被さるような形で固定するため、一部のM/BではUSB 3.0の内部端子に干渉することが報告されている。
システムを入れ替えたところ自分の環境でも干渉するようになってしまったので、解決法を以下の記事に記載。
またCPUソケットとのクリアランスもあまりないため、大型のサイドフローCPUクーラーでは「ファンが前(ケース前方側)に付けられない!」という報告もかなり多い。L字のSATAコネクタを利用して回避している人も多いようなのだが、この辺りはメーカーもわかっているようで、「HDDをフルに搭載する場合はファンをクーラーの後方(ケース背面側)に付けろ」と説明書に記述があったりする。
さらに背が高いヒートシンク(ヒートスプレッダ)付きメモリを使用していると、それが干渉してしまうこともあるようだ。
自分の環境はCPUクーラーはリテールで、メモリにもヒートシンクがなく、USBコネクタも干渉しなかったため何の問題もなかったのだが、一式新たに組む場合はパーツの選定にも影響を与えるかもしれない。
ただ干渉するのはあくまでHDDケージ(に設置したHDD)なので、ケージごと外してしまうという手はある。説明書には「エアフローのガイドになるので(使わなくても)外さない方が良い」と書いてあるのだが、そもそも干渉して組めないならエアフローを気にしたってしょうがない。幸いなことにケージを使わなくても、その下に2.5インチシャドウベイと3.5インチ(オープン)ベイがあるので、SSDと3.5インチHDD一台という構成なら特に困ることはないだろう。
ただ前面ファンの固定位置の関係上、3.5インチオープンベイに設置したHDDには直接風が当たらない。パーツ選択時に低発熱のHDDを選ぶなど、何らかの工夫が必要になるかもしれない。(元々シャドウベイになっている廉価モデルの「SST-PS07」なら風が当たるようだ。)
全体の剛性は高いものの、気になるネジの多さと板の薄さ
ケースが届いて組み込みのためにまず分解をおこなったのだが、そこでまず思ったのは「うわっ、こんなにネジが多いのか」ということだった。手回しが可能なネジは左右パネルを固定する背面の4本だけで、残りはすべてドライバーを使わなければいけない。フック状になっていたり、手でワンタッチロックできるような機構はほとんどなく、すべてがネジ止めという“懐かしい”感じがするケースだ。正直なところ、一通り組み終わったあとで「もうあまり開けたく(分解したく)ない」と感じてしまった。
「開けたくない」と思った理由はもうひとつある。それは個々のパーツを構成する「板」がお世辞にも厚いとは言えず、何度もネジを付けたり外したりするとネジ穴が広がってしまいそうな印象を持ったこと。ネジ穴が広がってしまえば「ネジを締める」ことが不可能になり(ネジが無限に回転し続けるため)、結果的にケースの組み立てや固定にも影響が出てしまう。もう少し値段が上がっても良かったから、板の厚さはもうちょっと何とかならなかったのか……というのが素直な感想だ。
ただ板が薄いことによるメリットがないこともない。それは「軽い」ことで、届いたケースを手で持ったところ「こんなに軽いの?」と驚いてしまった。スチール製のタワーケースと言えばどうしても重くなってしまうものだが、前面がアルミなのもあってアルミケースと勘違いしてしまうこともあるかもしれない。
また、板の厚さは薄いものの、不思議と組み立て後の剛性は高い。中身をギッシリ詰めてから持っても歪んだりはしないし、HDDやファンと共振したりもしない。上からある程度の力をかけて押しても、もちろん板が曲がったりする様子はない。
これは推測なのだが、個々の板は薄いとしても、きっちり組み立てて全体で剛性を稼ぐ仕組みになっているのではないか。妙にネジ止め部分が多いのも多分これが理由で、接合部を増やして強度を増しているように見える。したがって「板がペラいんじゃケース自体も弱いのでは?」という心配は不要で、全体としての作りはしっかりしている。前面パネルは高級感があるし、質感も悪くない。触った限り、バリが残っている部分もなかった。
とはいえ「板が薄い」「ペラい」という事実は変わらず、バラして組み立てるときにはネジの扱いに注意を払わないといけないのは間違いなさそうだ。また、メインの板やフレームがネジ止めなのはしょうがないにしても、今時ドライブの固定ぐらいツールフリーにできなかったのかという印象はどうしても拭えない。
弱点はあるが非常に魅力的なおすすめできるMicro-ATXケース。頻繁にいじらないなら板の薄さも気にならないか
ATXのケースが選択肢が広くよりどりみどりなのに比べ、Micro-ATXのケースはそれだけで選択肢が狭い。M/Bは様々なパーツのオンボード化が進み、ビデオカードすら差さなくてもいいようになりつつあって、結果的に小型で拡張性が低いMicro-ATXなどでも不満を感じる機会はずいぶん減っている。「ハイエンド」な高額Micro-ATXのM/Bだって珍しくない。
しかし、ケース選びの環境は2013年の今でもあまり整っているとは思えない。調べた限り、ミニタワータイプでは「鉄板」と呼ばれるほど万人にすすめられているものもないようだ。Micro-ATX向けケースは全体的に低価格帯のものが多く、作りが残念なものが多いのもこれに拍車をかけているかもしれない。メーカーによっては、Mini-ITX向けの方が魅力的なケースが多かったりする。
そんな中でこの「SST-TJ08B-E」は、小さい中にシルバーストーンなりのこだわりが詰め込まれているケースだと感じた。正圧設計とフィルタのセットは埃塗れのPC環境から脱出できるし、用意された裏配線のスペースはエアフローをより向上させるだけでなく、見栄えも良くできる。搭載可能なストレージ数やドライブ数も、このサイズから考えれば頑張っていると言えるのではないか。
また、このレビューでは触れなかった(自分は使用しなかった)が、長尺のビデオカードが使えるだけでなくHDDケージの上にそれを「置く」場所が設置されていたり、大型のCPUクーラーを使う場合に「台」になるものが用意されてたりする。中々細やかな気配りが感じられるケースだ。
前面のデザインとフロンパネルの端子がUSB 3.0(と音声入出力)だけなのは好みが分かれるかも知れないが、個人的には今後USB 2.0の使用率がどんどん下がることと、eSATAの使用頻度の低さを考えるとシンプルでいいのではないかと思う。低速で回す限り、前面の18cmファンが想像以上に静かだったのも高ポイントだった。
反面、気になる点はどうしてもある。小さいだけあってパーツ間のクリアランスと作業スペースの両方に余裕がなく、5インチベイと電源、そしてHDDケージとCPUクーラーやコネクタとの干渉は人によっては致命的だろう。内蔵するパーツ選びにそれなりの影響を与えるのは間違いない。
またケースの作りそのものは悪くないものの、物理的に鉄板が薄く、ネジもかなり多いことは組み立てやメンテの難易度を上げてしまっている。正直なところ「PCの自作は初めてです!」という人や「パーツは頻繁に変えてナンボ。ケースの分解・組み立ては日常茶飯事」という人にはあまりおすすめできない。
しかし、個人的にはこのケースに大きな魅力を感じる。高性能ビデオカードやストレージを多めに積むなど、冷却を重視しつつ「欲張りな」構成を狙えるところは、このケースサイズから考えればかなり嬉しい。クリアランスがかなりタイトなところも、ケースを選んでからパーツを厳選するような「自作の醍醐味」として考えればむしろ楽しむことができるかもしれない。「一度組んだら中身はあまりいじらない」という人なら、板が薄いことやネジが多いことも問題になりにくいだろう。
良質なケースの選択肢が多いとは言えないMicro-ATX規格の中で、この「SST-TJ08B-E」はクセは強いものの有力な候補になりえるのではないだろうか。
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