さらに進化した1TBプラッタ版HDD「WD30EZRX (1TBP)」レビュー

円安で各種PCパーツ、特にメモリとストレージ系のアイテムがさらに値上がりするとのことなので、予定より前倒しでデータ倉庫用のHDDを買い増すことした。買ったのは値段とエコ性能で人気のWD(ウェスタンデジタル)の「WD30EZRX」だが、正確には1TBプラッタモデルの「WD30EZRX-1TBP」になる。(「WD30EZRX/K」とも呼ばれる。両者は型番が違うだけで同じものとのこと。)

B009D9SJ7UWD Green 3.5inch IntelliPower 3.0TB 64MBキャッシュ SATA3.0 WD30EZRX-1TBP

このHDDは750GBプラッタモデルの時点からすでに人気だったが、1TBプラッタモデルになって記録密度の向上による速度アップと、部品数減少によるエコ性能の向上が見込める商品になっている。実際の素性はどうなのかレビューしてみたい。

「WD30EZRX(-1TBP)」基本スペック

基本的なスペックは以下のようになっている。

型番WD30EZRX-1TBP
(もしくは WD30EZRX/K
サイズ3.5インチ
容量3TB(フォーマット後は2.72TB)
インターフェースSATA3.0 (SATA 6Gb/s)
回転速度IntelliPower(5400rpm)
キャッシュ64MB
プラッタ1TBプラッタディスクx3
(単なる「WD30EZRX」は750GBx4)
AFT採用

さらに詳しい仕様は公式サイトの以下のページに記載されている。

まず前提として、WDはこの「Green」シリーズのHDDをシステム(メイン)ドライブとして使うことを推奨していない。公式サイトにも以下のように書いてある。

WD GreenハードディスクドライブについてはPCのセカンダリドライブ、外付けエンクロージャ、および低騒音・低発熱が求められるその他の用途を想定してテストを実施し、このような用途でのご利用をお勧めしています。

WD Green

一般的には「倉庫用」あるいは「データ保存用」などと言われるような、写真や動画、アーカイブファイルなどを保存しておくような用途に向いている。理由はHDDの速度や動作のチューニングを、主に低発熱や低消費電力を重視する「エコ」モデルになっているからだ。OSインストールや常用するアプリケーションを大量に入れるような使い方をしたいなら、素直に7200rpmのHDDやSSDを使った方が良い。

「ATF+3TB」仕様のHDD。実質的に「Vista以降」の対応品と考えた方がいい

実際のパフォーマンス等の話に入る前に、「3TB HDDの使える環境」について整理しておきたい。

「WD30EZRX」3TBのHDDなので、「2.2TBの壁」があるWindows XPではデフォルト状態では非対応になっている。M/Bベンダーやストレージメーカの用意した特殊なアプリケーションをインストールしたり、あるいは不具合を承知で使うなら使えないことはないが、それなら普通に2TBのHDDを買った方が楽であるのは間違いない。値段も安く手間もかからないため、個人的にはそっちをおすすめしておきたい。

なお、近年では主流になった物理セクタが4096byteに変更されたAFT(Advanced Format Technology)を採用したHDDでもあり、その点でもXPでの使用は注意が必要になる。これについては長くなるので細かい説明はしないが、詳しくは以下のページなどを参照して欲しい。

話を容量の3TB(2.2TBの壁)の方に戻すと、データドライブとして使うならVista以降のWindowsを使っているなら特に問題はない。これはOSがGPT(GUIDパーティションテーブル)という規格に標準で対応しているかどうかの問題で、WindowsはVistaから標準で対応するようになった。細かい条件は以下のページなどに分かりやすく説明されている。

3TB HDDをデータドライブとして使用できるWindows
3TBのHDDをデータドライブとして使えるWindows環境の一覧表。XPでも64bit環境には○が付いているが、一般的にはほとんど使われていない。(ASCII.jp:これで楽勝!? 3TB HDDをWindowsで使うツボを解説より引用。)

また、ブートドライブ(OSをインストールするシステムドライブ)としてはさらに環境が限られるが、前述のとおりにその用途で使うことはメーカから推奨されていない。いちおう表の引用だけしておくが、あまり気にしなくていいだろう。

3TB HDDをブートドライブとして使用できるWindows
3TBのHDDをブートドライブとして使えるWindows環境の一覧表。64bit OSに限られるが、実は条件はハードウェア側にも及ぶ。(ASCII.jp:これで楽勝!? 3TB HDDをWindowsで使うツボを解説より引用。)

ブートドライブとして使うべきではないという「WD30EZRX」の特性も加味すれば、要するに「XPでは問題があるが、Vista以降なら普通に使用できる」という結論になる。

パフォーマンスと発熱・騒音などをチェック

さて、実際のパフォーマンスや使用感の話に移ろう。まず一番気になる読み書き性能だが、それはベンチマーク結果を見てもらうのが早い。CrystalDiskMarkで取得した結果は以下のとおり。なお、OSはWindows 7 64bit版、接続はM/Bの関係でSATA 2なっているが、SSDではないので特にボトルネックなっていることはないと思われる。(SATA 2でも転送速度は300MB/secもあるため。)

「WD30EZRX」ベンチマーク結果 (アロケーションユニットサイズ 4KB)
「WD30EZRX-1TBP」ベンチマーク結果(3TB 5400rpm キャッシュ64MB)

比較として以前レビューしたSeagate製で5900rpmの「ST2000DL003」と、同じウェスタンデジタル製で5400rpmの「WD20EARS」のベンチマーク結果を貼り付けてみると以下のようになる。

ST2000DL003ベンチ結果
「ST2000DL003」のベンチ結果(2TB 5900rpm キャッシュ64MB)

WD20EARSベンチ結果
「WD20EARS」ベンチマーク結果(2TB 5400rpm キャッシュ64MB)

「WD20EARS」は容量を半分以上使っているためあまり参考にならないが、「ST2000DL003」と比べれば「WD30EZRX」は回転数が遅いのに、さらにRead / Writeが速くなっていることがわかる。これもプラッタの記録密度が向上しているおかげだろう。以前「ST2000DL003」をレビューしたときに5900rpmモデルが、一昔前の7200rpmモデルより高性能であることに驚いたが、5400rpmでここまでの性能が出るようになったことはなかなか感慨深い。

騒音・発熱など

「WD Green」モデルであることを踏襲し、「低騒音・低発熱」を実現してると感じる。具体的な温度はミドルタワーケースに組み込み済みの室温18度で、CrystalDiskInfoを使いチェックすると24~25度のあたりを前後している。同じPCケースには同じGreenシリーズの以前のモデルである「WD20EARS」も組み込んであるが、ほぼ同じ温度。プラッタ枚数が同じ(667GBプラッタx3枚)で回転速度も同一なので、少なくとも発熱量に関しては大きな差はなさそうだ。

WD30EZRX動作温度

ちなみに激しくアクセスを繰り返すと温度が変化するか調べてみたが、それでもせいぜい1度ぐらいで大きな差はなかった。ただエアフローがかなりしっかりしてる状態なので、窒息気味のケースだとまた事情は異なるかもしれない。

なお、先ほどのベンチマークで出てきた「ST2000DL003」は同一条件で27~28度前後になっている。やはりこちらの方が5900rpmなのが原因なのか、発熱量は若干上のようだ。

騒音に関しても当然主観だが十分に静かなHDDだと感じる。ケースに組み込んだ通常の状態ではほぼ無音で、アクセスが集中したときに「ゴリゴリ」「カリカリ」という音が少し聞こえる程度。明らかに冷却用の12cmファンの方がうるさい。

もちろんバラックのむき出し状態で耳を近づければ、相対的に音は大きくなるので、SSDと違い「無音」ではない。ただ現実的に考えてそんな耳元まで近づける使い方をするわけがないので、レベルとしては「静音」と言ってまったく問題ないはずだ。

「アロケーションユニットサイズ」で速度は変化するか?

先ほど「WD30EZRX-1TBP」のベンチマーク結果を貼り付けたが、実は前々から気になっていて試してみたかったことがある。それは見出しにもあるように「アロケーションユニット(クラスタ)サイズを変更すると本当に速度が向上するのか?」ということ。基本的にWindowsのNTFS環境の場合は、デフォルトのクラスタサイズは16TBのストレージまで4KB(4096byte)とされているため、実質的にどんなHDD(ストレージ)でも4KBでフォーマットするのが標準となっている。

このアロケーションユニット(クラスタ)サイズを大きめに変更すると、(ファイル構成にもよるが)使用できる容量に若干の減少が生じる反面、アクセス速度が向上すると言われている。

クラスタサイズ選択画面
ディスクフォーマット時のアロケーションユニットサイズ選択画面。64KBまで選べる。

こういうことはまっさらなHDDを用意したときしか試すのが大変なので、せっかくの機会なので実験してみることにした。対象HDDはもちろん今回の「WD30EZRX-1TBP」で、デフォルトの4KBクラスタと最大の64KBクラスタを比較してみることにする。結果は以下のとおり。

「WD30EZRX」ベンチマーク結果 (アロケーションユニットサイズ 4KB)
アロケーションユニットサイズ 64KB
上が4KB、下が64KBでフォーマットしたもの。差はほぼなく、誤差と言える。

見ての通り、上下の結果で目立った差は何もない。若干の差がないこともないが、このレベルなら完全に測定誤差だと考えられる。実は上でリンクした記事でも、別の記事では「AFT」つまり物理セクタに4KBを採用したHDDでは特に速度の向上は見られなかったと総括している。今流通しているHDDがみな同じ結果になるかはわからないが、少なくともこの「WD30EZRX」はデフォルトの4KBでフォーマットすれば十分ということになるだろう。

セットアップ後のTIPS - 初期不良品をチェックするために

HDDに限らないが、購入したパーツが初期不要品か否かは誰でも気になるところ。HDDの場合は、基本的に「(クイックではない)通常フォーマット」をすればエラーセクタなどもチェックできるが、念を入れたいときはメーカー純正のツールを使っても良い。WD Greenシリーズの場合は以下のユーティリティになる。

日本語化はされていないが使い方自体は難しくなく、「Data Lifeguard Diagnostic for Windows」をダウンロードしてインストールし「WinDlg.exe」を起動する。使用許諾に了解し、目的のドライブ(今回ならWD30EZRX)をダブルクリックして以下の画面を表示させる。

WDのWinDlg起動画面
「Data Lifeguard Diagnostic」の起動画面。2種類のチェックとゼロデータでの塗りつぶしが可能。

後は「EXTENDED TEST」を選択して実行すれば、すべてのセクタをチェックしてくれる。今回の3TB HDDの場合、自分の環境では作業が終わるまでに約7時間半かかった。まあ基本的に放置しているだけでいいのだが、気になるなら寝る前にでも実行しておけばいいだろう。無事終わったらクイックフォーマットで使用可能な状態にすればいい。

EXTENDED TEST 終了画面
「EXTENDED TEST」の終了画面。大容量HDDだけあってかかる時間も相当のもの。

ちなみにさらに念を入れるなら「WRITE ZEROS」を挟んで2回「EXTENDED TEST」をやるのが良いとのことだが、恐らく本当に丸一日コースになるはず。正直かなり人を選ぶと思うが、気にする人はやってみるといいかもしれない。

用途は選ぶがニーズとマッチすれば優秀なHDD。アクセス速度が向上しさらに「できる」ように

購入タイミングの問題で750GB(x4)プラッタモデルは使う機会がなかったのだが、各種のレビューやベンチマークによると、大体シーケンシャルリード/ライトが130MB/s前後。プラッタ容量が増加したことにより、劇的ではないが順当に速度が向上していることが伺える。また、当然内部のパーツも減っているわけで、消費電力や騒音・発熱等の観点から見てもメリットが分かりすい。型番は微妙に変わっているだけだが、明らかに1TBプラッタモデルを買った方が良い。

最初に書いたように、この「WD30EZRX」というかWD Greenモデルは用途を選ぶ。端的には「データ保存・倉庫用」と呼ばれる用途に特化しており、システムドライブ等には向かない。上記のように1TBプラッタモデルになって速度は向上したが、それでも現行の他の7200rpmモデルならさらに速度は上をいくし、ヘッドを積極的に退避させるなど独自の挙動も多い。パフォーマンスが欲しいならこのHDDを選ばない方が得策だ。

しかしその点を最初からきちんと理解していて、エコモデルを意図的に選んでいるなら、このHDDは目的を十分に果たしてくれるはず。そもそも自分がこの「WD30EZRX」を選択したのは、今まで使っていて「データドライブが高速(7200rpm)である必要は無い」と感じていたから。OS(Windows)と頻繁に利用するソフトを入れるドライブ(SSD・HDD)は高速であるほど基本的に快適になるが、アクセスする頻度がグッと低い倉庫用ドライブのピーク性能が高くても大したメリットはない。むしろ静かで低発熱だったりする方がずっと意味がある思っている。

「データ保存用」という条件付きではあるが、実感としてこの「WD30EZRX」は十分すぎるパフォーマンスと宣伝文句どおりのエコ性能を発揮してくれている。同じようなニーズでHDDを選ぶなら十分にお勧めできるし、買って損はないHDDだろうと思う。