明らかになったWindows8の販売ライセンス種類を整理する

10月26日に発売が迫ったWindows 8の販売パッケージと種類が公開された。Windows 8はWinodws Vistaから細かく分かれていたエディションが「無印」と「Pro」だけにまとめられたが、同時にライセンスの種類も減ることになった。このあたりをちょっと整理してみたい。

2013年2月1日にWindows 8の特別価格が終了したことと、「無印」のアップグレード版が発売されたことにより一部改訂。

Windows 7のライセンス種類はどうだったのか

Windows 8の話題に入る前に、まず「変わる前」のWindows 7時代のライセンス形態について振り返っておきたい。Windows 7の場合は、大きく分けて4つ、OEM版を2つに分けると計5種類のライセンスが存在していた。

リテールパッケージ版(フルパッケージ版)

いわゆる「通常版」で単なる「リテール版」とも呼ばれる。利用制限が特にない新たなライセンスが発行され、どんなPCにでも新規インストールすることができる。パッケージ内に32bit版と64bit版の両方のディスクが入っていて、あとから32bit → 64bitに切り替える(インストールし直す)ことも可能。さらにマイクロソフトから直接無償電話サポートが受けられるが、他に比べて値段がかなり高いというデメリットがある。

販売経路としては家電量販店、パソコンショップ、通販など幅広い店で買うことができるが、自作PCのパーツなどを主に扱う店では後述のDSP版をメインに扱っているため、店によってはほとんど置いていない場合もあるようだ。

アップグレード版

既存のWindowsからのアップグレードに使う。ライセンスはすでにもっているWindowsと「入れ替え」のような形で発行され、アップグレード元のOSとの同時使用はできない。例えばWindows Vistaからアップグレードしたなら、そのWindows 7を使っている限りVistaは使えなくなる。リテールパッケージ版と同じく32bit版と64bit版の両方のディスクが付属してるため、買うとき迷わなくていいのはメリット。

値段に関してはリテール版と比べると安いが、後述のDSP版と比べるとエディションによっては高くなる傾向がある。

ちなみに余談として、インストールするときにアップグレード元のWindowsがHDDにあらかじめインストールされている必要があり、基本的に単にライセンスやディスクをもっているだけではダメという技術的な制約がある。そのためインストールが面倒で自作PCユーザにはあまり好まれていない様子。(ただ一種の裏技のようなものは存在する。)

主な販売経路はリテール版と同じ。

OEM版とDSP版

OEM版とDSP版のWindowsは良く同一視されるが、サポート範囲が異なるせいかマイクロソフトでは区別されている。それによるとDSP 版は、広い意味では OEM 版の 1 つ* ということらしい。

したがってここではOEM版とDSP版を分けて記述する。

OEM版

メーカ製PCに最初からプリインストールされているバージョン。普通にパソコンを買ったときに付いてくるWindowsはこれ、と覚えておけば間違いはない。あくまでPCの付属品に近いので、OEM版Windowsを単体で買うことはできず、結果として値段は無いとも言える。

ライセンス的にはPCそのものに紐付けされているので、そのプリインストールされているマシン以外では使うことができない。たとえそのPCを使わなくなっても、OSのみを使い回すことはできないということになる。インストールディスクは「リカバリディスク」としてPCメーカの付属ソフトと一体化したものが付属することが多かったが、近年はコストダウンのためかHDDの別パーティションなどにデータとして入っていて、ディスクなどが付いてこない場合も多いようだ。

なおサポートに関してはリテール版Windowsはマイクロソフト自らがおこなうことになっているが、OEM版は買ったPCの製造販売元がおこなうようになっている。(例としてあげるならNECや富士通など。)後述のDSP版は実質的にサポートが存在しないため、その点有利といえるかもしれない。

DSP版

「バンドル版」とも呼ぶ。特定のパーツ・ハードウェア(CPU・M/B・メモリ・各種ドライブ・拡張カードなど)とセットで販売することが義務づけられていて、単体で購入することはできない。ライセンス自体にも縛りがあり、そのパーツを組み込んだPCでなければ使えない。OSを引っ越したい場合はそのパーツも一緒に引っ越す必要があるが、OEM版と違いPC本体そのものとライセンスが結びついているわけではないので、自由度は比較的高い。

自作PC界隈ではそれを逆手に取り、ハードウェア構成にほとんど影響が無く、かつ楽に脱着可能なFDDとセットで販売するのが慣例になっていた。ただ近年はFDがほぼ絶滅状態になってほとんど使用されなくなったほか、マイクロソフトの要請によってFDDとセット販売できなくなった模様。結果として安さ優先の拡張カードがセット品によく使われるようになったようだ。

特徴としては値段が安いことが上げられ、抱き合わせのパーツを含めても余裕でリテール版より安いため特に自作PCでの人気が高い。価格の面ではアップグレード版も比較的安いのだが、DSP版は新規インストールに何の制限もないので使い勝手の良さも魅力になっている。

逆に弱点としては「実質的にノーサポートに近い」というのがあげられる。いちおう建前としてはサポート提供元は購入した販売店になるのだが、ハードの不良はともかくOSの問題の対応を小売店に期待することはできず、実際はノーサポートであることが珍しくない。また、32bit版と64bit版のパッケージは別になっている。

主な販売経路はパソコンショップ・PCパーツ店など。昔はネット通販では必ずセット販売する必要性があったので若干買いにくい傾向があったのだが(そもそもラインナップにない・価格が要問い合わせなど)、近年はAmazonでも(以下のように)LANボートとセットで普通に売っていたりする。

ボリュームライセンス版

企業向けの大口契約用。複数のライセンスを一括で購入・管理できるのが特徴。ただ個人で購入することはまずないのでこれ以上の説明は省略。どうしても購入を検討したい場合は以下のページを参考にするといいかもしれない。

Windows 8の販売ライセンス種類

本題のWindows 8の話題に戻ると、まず大きな変化としてリテールパッケージ版が廃止されたというのがある。理由については明らかにされてないようだが、海外の記事によると「単に不人気で売れてなかったからではないか」という話が出ている。

Windowsの場合、フルリテール版の製品は非常に高価なことが多い。たいていのユーザーは、新しいPCにプリインストールされているものを利用するか、ボリュームライセンスで購入するか、以前のバージョンのWindowsからアップグレードすることから、フルリテール版はあまり人気がない。Windowsをまだインストールしていないマシンのためにまっさらのフルリテール版を必要としていて、購入したいというユーザーはごくわずかだ。

マイクロソフト、「Windows 8」ではフルリテール版を廃止か - CNET Japan

この方針によってWindows 8のライセンス種類は大きく分けて3種類、OEM版とDSP版を分ければ4種類に減った。(上に引用した記事では「Windows 8 Pro System Builder」というものが提供される予定とも書かれているが、これについて日本ではまだ正式発表されてない模様。あるいは単に日本では販売されない可能性もあるので、とりあえず無視して話を進める。)

またリテール版が廃止された影響なのか、DPS版のライセンス要件も変更された。具体的にはパーツとのバンドル販売が不要になり、単品で販売・購入できるようになった。多くの自作PCユーザはDSP版を利用するシチュエーションの方が多かっただろうから、恐らくこっちの影響の方が大きいだろう。

以上を踏まえてWindows 8の販売ライセンスまとめると以下のようになる。

アップグレード版

リテール版が廃止されたため、唯一の「店頭に並ぶマイクロソフト自らが発売するパッケージ」になった。(OEM・DSP版はPC・パーツの販売元を介してユーザが入手する形になっているし、ボリュームライセンス版は店頭に並ばない。)ライセンスが旧OSと「入れ替え」になることと、1パッケージで32bit版・64bit版の両方に対応しているのは変わらない。

なお、発売直後は「エディションが“Pro”のみに限られて無印版がない」という特徴があった。

しかし、2013年1月31日までおこなっていた「アップグレード版Proを6000円以下の特別価格で提供する」というキャンペーンが終了すると同時に、「無印版」が発売されている。

また、同社は2月1日にこれまで販売されてこなかった「Windows 8アップグレード版」を発売する。実売価格は1万3800円前後だ。

Windows 8アップグレード版は1万3800円で発売:Windows 8 Proアップグレード版の優待価格が1月31日で終了――実売価格は5800円から2万5800円へ - ITmedia PC USER

これは恐らく「Pro」の値段を大幅に下げて販売していた関係上、機能が減っていてさらに安くなるべき「無印」を投入する価格帯がなくなってしまっていたのが原因だろう。だがそのキャンペーンが終わったため、やっと「無印」を売る価格帯と条件が整った……といったところではないか。

まあそれはともかく結果として、現在ではWindows 7の頃と販売タイプに大きな差はなくなっている。

 

「Windows 8 ProPack」とは

アップグレード版に含めるのが正しいのかはわからないが、「Windows 8 ProPack」というパッケージ商品もあるので混乱を避けるために紹介しておきたい。これは無印版Winodows 8をWindows 8 Proにエディション変更(アップグレード)するためのもので、単体では使えない。間違って買ってしまわないように気をつけよう。

ちなみにこの「Windows 8 ProPack」も上記のアップグレード版と同じように、2013年1月31日までは特別価格となっていて、5000円から6000円程度の価格帯で売られていた。現在は「本来の」価格にされ、12,000円前後で発売されている。

 

OEM版とDSP版

OEM版

調べた限りWindows 7の頃と特に変化はない様子。なので省略。

DSP版

前出のとおりパーツとのバンドル販売が不要になり、単体で販売されるようになった。またそれが理由は不明だがいちおう形だけは存在した「販売店によるサポート」がなくなり、本当に完全なノーサポート製品になったとのこと。

DSP版は従来、CPUやハードディスクなど各種パーツへのバンドル販売でのみ提供されていたが、Windows 8ではその制限がなくなった模様。ただし、販売店やマイクロソフトからの無償サポートが一切ないという。

Windows 8の予約が開始、パッケージ版はアップグレードのみ -INTERNET Watch

ただ一部のショップは「独自サポート」を付けてくれる様子。気になる場合はこのようなサービスがある店で買うと良さそうだ。

大部分のショップは通常のDSP版を販売するが、一部ショップは独自に用意したサポート権を添付、「独自サポート付きのDSP版」として販売する予定。こうしたショップでは「サポート権なしのDSP版は当面販売しない」と説明しており、実質的には「購入するショップで、サポート条件が変わる」と考えておけばよいだろう。

Windows 8は10,800円から、DSP版でも単体購入OKに / 予約受付開始、アップグレード版は約6千円

Windows 8の方針は「新規インストール用のOSはDSP版のみ」ということになったらしく、それによって(サポートの有無を除けば)このようなリテール版とDSP版の特徴を足して2で割った形に落ち着いたのかもしれない。ただ完全にリテール版の代用になるわけではなく、32bit版と64bit版が別なのは変わらない。

 

ボリュームライセンス版

Windows 7と同じく個人で使うことはほとんどないので省略。

まとめ

Windows 7から8への変更点を比較表にすると以下のとおり。なお、個人で購入する機会がまずないボリュームライセンス版と、単体・日本では購入できないWindows 7のStarter・Home Basic・Enterpriseの各エディション、それと8のWindws RTは表から除外している

比較項目Windows 8Windows 7
販売エディションWindows 8
Windows 8 Pro
Windows 7 Home Premium
Windows 7 Professional
Windows 7 Ultimate
アップグレード版のエディションWindows 8 (※1)
Windows 8 Pro
Windows 7 Home Premium
Windows 7 Professional
Windows 7 Ultimate
ライセンス形態アップグレード版
OEM版
DSP版
リテール版
アップグレード版
OEM版
DSP版
MSによるサポートが
あるライセンス
アップグレード版リテール版
アップグレード版
PC販売メーカによるサポートが
あるライセンス
OEM版OEM版
販売店によるサポートが
あるライセンス
なしDSP版(※2)
DSP版のバンドル販売の必要性なしあり
32bit/64bit両対応アップグレード版のみリテール版
アップグレード版
  • (※1)当初は「Pro」版のみ。後に「無印」版が追加された。
  • (※2)形としては存在するが、実態はノーサポートであることが多い。

なお具体的な価格については以下のリンク先にAmazon.co.jpで取扱中のものを一覧できるページを作ったので、よければ参考にどうぞ。(価格は一定時間で最新のものに更新。)