2012年4月10日にサポートが終了するWin Vistaのユーザはどうするべきか

2012年2月20日にマイクロソフトは新たなサポートライフサイクル方針を発表し、Windows 7とVistaのサポート期間は変更されました。詳細は以下のページへ。

このブログでは過去に何度か話題にしているが、Windows Vistaは"BusinessとEnterprise Edition"を除き2012年4月10日にMicrosoftのサポートが終了する。これによって今後はセキュリティパッチも提供されなくなるため、多くのVistaはWindows 98や2000、MEと同じ「放置状態のレガシーOS」となってその役目を終えることになる。(BusinessとEnterpriseは2017年4月11日までサポート予定。もちろん期限まで今後もセキュリティパッチは提供され続けるので、問題なく使用することができる。)

今回はその影響と、Business・Enterprise以外を使用しているVistaユーザにどのような選択肢があるのかをまとめてみたい。

「Windowsのサポートが終了する」とはどういうことか

サポート期間が終了したWindowsは「ユーザが使用するべきではないOS」とされ、新たな機能やソフトウェアの追加(例としてはIEやWMP等)やデバイスの対応はもちろんのこと、不具合の修正もされなくなる。これは「(そのOS内で)使用しているソフトはまだサポートされている」状態でも同様で、何かあってもサポート切れのOSでは対応しないことを公式サイトで明言している。

5. 使用しているプログラムは、現在サポート ライフサイクルによるサポート提供期間中ですが、オペレーティング システムは、サポート ライフサイクルによるサポート提供が終了しています。このプログラムに対するサポートはまだ受けることができますか?

プログラム単体で発生する問題の場合、マイクロソフトはサポートを提供します。問題が、サポート提供が終了しているオペレーティング システムとの組み合わせにより発生する場合は、サポートは提供されません。

ライフサイクル ポリシー FAQ

つまり名実ともに"終わった製品"とマイクロソフトに見なされ、すでにサポートが終了したWindows 98や2000などの仲間入りを果たすということになる。

さらに問題なのは緊急や月例のセキュリティ更新すら提供されなくなることで、今後そのOSに致命的な脆弱性、セキュリティホールが発見されても何の対応もされなくなってしまう。これはネットに繋ぐPCでは死活問題になる。日々次々新しい脆弱性が発見され、それを利用する悪質なプログラムが誕生しているのに、その穴がいつまでも開きっぱなしになってしまうどころか、むしろ時間が経てば経つほど増えていってしまうわけだ。

では、なぜ、レガシーOSでは、ウイルス感染などのセキュリティ的障害を起こす原因となりうるのであろう?もっとも大きな要因は、「セキュリティパッチ(修正パッチ)が提供されなくなること」だ。通常、OSだろうとアプリケーションだろうと、脆弱性が見つかれば、ベンダーからセキュリティパッチが発行される。それこそ、毎日のようにだ。

しかし、サポート切れということは、そのパッチがそもそも発行されなくなることを意味する。つまり、見つかった「弱点」である脆弱性を晒したまま日々生活しなければならない状態に置かれるのだ。人体でいうと免疫が低下した状態に強制的に置かれるようなものだ。この状況で、何らかの病原菌が入ってくれば、それは即、命にかかわる問題になりかねない。

ASCII.jp:7月13日でWindows 2000サポート終了!その問題とは?|ゼロからわかる最新セキュリティ動向

上記の引用記事はWindows 2000の話だが、セキュリティの基本としては今も変わらない。個人情報やユニークデータが満載のPCを「ネットに繋ぐのが当たり前の時代」である以上は、OSを最新の状態にしておくのはウイルス対策ソフトを入れておくのと同じぐらいの最低限のリスク管理といえるだろう。

Windows Vistaのサポート期間は短い?

ネット上などでは良く「Vistaはサポート期間が短すぎる」という意見を見かける。確かに前のバージョンであるXPは2014年4月8日までサポートが続くため、それと比べて変に短く見えるのはしょうがないかもしれない。

ただ事実を書いておくと、Microsoftは何年も前から「家庭用・一般向け製品のサポートは最短5年、ビジネス・業務用向け商品は最短10年でサポートを打ち切る」という方針を立てて実行し続けている。「Vistaは評判が悪かったため早々にサポートが打ち切られた」というのは間違いで、単に予定どおりサポートが終了したに過ぎない。実際に今回サポートが終了するのはHome Premiumなどの一般向けOSで、主に業務向けのBusinessのサポートが続くのもこれが要因となっている。

最初にサポート ライフサイクル ポリシーが適用されたのは 2002 年 10 月 17 日 (日本時間) です。サポート ライフサイクル ポリシーの変更は 2004 年 6 月2 日 (日本時間) に実施されました。

(中略)

ビジネス、開発用製品
マイクロソフトはビジネス、開発用製品に対して最短でも 10 年間のサポートを提供します。

(中略)

コンシューマ、ハードウェア、およびマルチメディア製品
マイクロソフトは、製品発売日より最短でも 5 年間、あるいは次期製品 (N+1) の発売より 2 年間のどちらか長い方の期間、メインストリーム サポートを提供します。コンシューマ、ハードウェア、およびマルチメディア製品には、延長サポートは提供されません。

ライフサイクル ポリシー FAQ

現行のWindows 7はVistaと違い市場や一般の評判も上々で今も販売が続けられているが、これも現在のところProfessionalとEnterpriseが約10年・それ以外が約5年と、Vistaと同じサポートライフサイクルのスケジュールが設定されている。Vistaだけ特段にMicrosoftの扱いが悪い、というわけではないのだ。(だから批判するならMicrosoftのOS事業全体を対象にしないとつじつまが合わなくなる。)

ただVista Ultimateは延長サポートの対象商品で、本来ならBusinessと同じだけのサポート期間があることになっていた。しかしその後マーケティング的な問題が起こったのか、Home Premiumなどの家庭向け製品と同じ約半分の期間に短縮されてしまった経緯がある。

これがより一層「Vistaはサポートが早々に打ち切られる」という印象を強めたのかもしれない。

「段違い」にサポート期間が長いXP

「Windows VistaはXPよりサポート期間が短い」のは確かに事実だが、これはVistaのサポート期限が短いというより、「XPが極端に長い」という見方をした方がいいだろう。XPのリリースは2001年であり、この記事の執筆時点ですでに10年以上経過している。しかもサポート終了は2014年4月8日を予定していて、まだ2年以上サポートが続く。恐らくサポート終了前にさらに次世代の「Windows 8」が発売されていることだろう。

なぜここまで長くサポートされるようになったのかは一言では説明しにくいが、恐らく以下のような要因が複雑に組み合わさってこのような状況を生んだのだと思う。

  • XPの次世代OSであるVistaの開発が難航し、販売まで延期に延期を重ねたこと。
    • 理由としては事前に機能面で大風呂敷を広げすぎて収拾が付かなくなったことと、2003年頃からBlasterと呼ばれるワーム(ウイルス)が大流行し、XPの改修(SP2)に全力を傾けなければならなかったことが良くあげられている。
  • 実際に発売されたVistaの評判が想像以上に悪く、想定どおりに普及が進まなかったこと。
    • こちらの理由は「(発売後しばらくは)プリンストールされているPCの性能がOSを動かすのにお世辞にも十分とは言えない状態で、結局最後まで"重い"という評判を覆せなかった」「ユーザインターフェースの大幅な変更が嫌われた」「UACなどのセキュリティ強化がユーザビリティの低下を招いた」「(特に初期の)全体的なOSのチューニング不足」あたりが良くいわれる。
  • 2007から2008年にかけてPC業界のトレンドとしてネットブックの大ブームが起きたが、性能的に重量級のOSだったVistaを搭載するわけにはいかず、Microsoftとしても新規のXPの販売を続けざるをえなかったこと。
    • ちなみに2007年はVistaが発売された翌年になる。

以上のような理由でXPの利用者は減るどころか、むしろXPの製品寿命は逆にどんどん延び続けることになった。結果としてとてもサポートを終了できるような状態にはならず、今もそうなっていない、というあたりがその実態に近いのではなかろうか。

Ultimate・Home系を使用しているVistaユーザは2012年4月10日を前にどうすればいいのか

いくつかの選択肢があるが、いずれにしても多くの場合にそれなりの予算と手間が必要になる。予算をかけない方法もあるにはあるが、それなりの知識と工夫と忍耐力と作業とあきらめが必要になるかもしれない点は注意しておきたい。

ちなみに前述のとおりにWindows 7もVistaと同じように「ホームユーザ向け製品は最低5年・ビジネス向け製品は最低10年」というサポート方針を採用しているため、今のところHome PremiumやUltimateは2015年1月13日、Professionalが2020年1月14日までサポートされる予定になっている。長く使っていきたいなら、Professionalを選んだ方がいいだろう。

1.Windows 7へバージョンアップする

Windows 7を購入し素直にバージョンアップする方法。恐らく一番スタンダードな方法ではあるはず。Windows 7の必要スペックはVistaとほぼ変わらず、むしろ動作は高速化しているという点からも問題は少なく現実的だといえる。

基本的にアップグレード版を購入すればいいが、Vistaの環境を引き継いだまま「上書きインストール(アップグレードインストール)」できるかは、今使用しているVistaのエディション(とどのbit版か)による。具体的にどのバージョンから上書きインストールが可能なのか、あるいは新規インストールが必要なのかは下にMicrosoft公式の表の引用とリンクを張っておくので、別途確認して欲しい。

Windows XP / VistaからWindows 7へのアップグレード対応表
XPやVistaからWindows 7へアップグレードする場合の上書きインストール可否表。条件がかなり限られることがわかる。

ただ注意点としてアップブレードした場合は、旧OS(今回の場合はVista)の利用権が新OSと入れ替わる形になり併用はできなくなってしまう。もし何らかの理由(例えば仮想マシン上で隔離して使いたいなど)で「Vistaの利用権を残しておきたい」場合は、アップグレード版ではなくDSP版か通常のパッケージ版を購入すれば「Windows 7のライセンスを追加する」形になってこの点はクリアされる。あるいは単に「安いDSP版を選びたい」ということもあり得るので、そういう意味でも(特に新規インストールになってしまうなら)こちらを検討してみてもいいかもしれない。

なお上書きせよ新規インストールにせよ、アップグレードする場合は使用しているPCでWindows 7がインストール可能かどうかを確認できるWindows 7 Upgrade AdvisorというプログラムをMicrosoftが用意しているので、まず最初にこれを試してみることをおすすめしたい。

Windows 7 アップグレード版

 

通常はこちら。32bit版と64bit版のディスクが両方入っている2枚組のパッケージになっている。必要になった時点で32bitから64bit環境に移行する、ということも可能。

Windows 7 通常版(リテール版)

 

アップグレード版と同じく32bit版と64bit版のディスク2枚組の構成。新たにWindows 7のライセンスを追加する形になる。

Windows 7 DSP版 32bit

 

ライセンス要件としてパーツとセットでの購入・使用が必要になっている。アップグレード版などと違い、32bit版と64bit版が別になっているため、必要な方を選んで購入する。

Windows 7 DSP版 64bit

 

2.新規にPCを買う(PC買い換え)

新しいPCには当然現行のWindows 7が搭載されている。特に近年はPCの高性能化と低価格化が激しいので、OSを買い換えるぐらいならPCごと変えた方が総合的に得だということは十分あり得る。すでに5万円以下の安価なノートPCでも十分すぎる能力を備えている事が何も珍しくなく、「3Dゲームをやりたい」などの特別な理由がない限り、性能に不満を感じることはかなり少ないだろう。

それに加えPC自体も永遠に使えるというものではなく、数年単位で使っていれば物理的な故障が起こってもおかしくない。特に「HDDは消耗品」といわれるぐらいで、トラブルが比較的起こりやすい。「使ってるPCが遅い・重い」「全体的にくたびれてきた」と思っているなら、この選択肢を考慮した方がいい人も多いかも知れない。

ちなみに新規にPCを買う場合(に限らないが)は、Microsoftの「Windows 転送ツール」という純正の環境移行ソフトを利用することができる。

もちろんすべてのユーザデータを移行できるわけではないが、利用すればある程度手間を省くことが可能だ。

3. Vista Businessに乗り換える

何らかの事情によりWindows 7へ移行することができず、どうしてもWindows Vistaを使い続ける必要があるなら、延長サポートがあるBusiness Editionに乗り換えることによって2017年4月11日までサポートが受けられるようになる。シチュエーションとしてはかなり限られるだろうがとりあえず可能で、慣れたVista環境でさらに5年間使い続けることができる。

ただ今更Vista Businessを購入しなければならないのと、アップグレード(上書き)インストールがVistaのHome Basicを使ってる環境でしかできない、というかなり大きな問題がある。

Windows Vista間でのアップグレードインストール対応表
Vistaの別のエディションに乗り換える場合のアップグレードインストールの対応表。残念なことにHome Basicから以外は新規インストールするしかない。

ほとんどの人にとっては選ぶ意味がないとは思うものの、選択肢としてはあるので書いておきたい。

4. OSをXPに入れ替える

前述のようにWindows XPの方がサポート期間が長く2014年4月8日までセキュリティ更新がされ続けるため、Vistaの使用をやめてXPを入れ直す(新規インストールする)ことによって約2年延命することが可能。XPのライセンスを持っている(余っている)場合はそれをそのまま使えば、手間はともかくお金がかからないという利点がある。

ただし問題点も多く

  • 上書きインストールは不可能なため、新規インストールして環境を手動で移行するしかない。
    • (特にメーカ製PCの場合)ハードウェアが対応しているのか、ドライバ等がきちんとあるのか不明。
  • システムが根本的に変わるため、インターフェースや各種環境が一変する。
    • 使用しているソフトがそのまま動くとは限らないし、ユーザデータなども使い回せるのかわからない。

などの原因により、トラブルが多発する可能性がある。何か問題が起こっても自己解決ができるような、ある程度経験や知識がある人でないと実行は難しいだろう。

5. Windows以外のOSに乗り換える

いっそのことWindows自体の使用をあきらめ、Linuxなどの別OSを入れてしまう方法。いうまでもなく今までの環境はまったく引き継げず、Windows用のソフトウェアは使えなくなってしまうが、ハードウェアが無駄にならず無料で使い始められるOSが多いのもメリットになる。

とはいえまったく触ったこともないOSに急に移行するのは現実的とは言い難いため、「経験者がハードを無駄にしないためにおこなう」という側面が強い。やるとしても買い換えて余った旧PCにLinuxを入れてサブマシンにしてみる、というあたりが妥当かもしれない。

6. 完全にオフラインで使う

例えセキュリティサポートが終了しても、完全に隔離されたオフラインのスタンドアロンマシンなら使い続けても問題が起きる可能性を格段に減らすことができる。ネットに繋がない限りは脆弱性を利用する悪質なプログラムの影響を受けにくくなるので、文書作成や日記の執筆、オフラインのゲームなどに使うなどの運用方法を変えるというのもひとつの手。(とはいえUSBメモリなどの外部デバイス経由の感染などもあり得るため、完全に安全というわけではない。)

ただ今のPCやソフトは「常時オンライン状態」が前提になっている部分も多く、オフラインだと当然インターネットの閲覧すら不可能になってしまう。ユーザによっては「完全に役立たず」になってしまう場合もあり得るわけで、実行できるかは使用しているシチュエーションに左右されるだろう。

初めて迎える大規模な「エディションごとに違うサポート期間の違い」は何をもたらすか

見出しのように、Windows Vistaはビジネス用とホームユーザ用のOSを統合した後での、初めての「エディションの違いだけでサポート期間が異なり、そしてビジネス用を除きサポートが終了するWindows」の大規模な例となる。かつてはビジネス・業務用向けとホームユーザ向けは(Windows NT・2000と9xのように)明確に別れていたから特に混乱は起こらなかったし、XP Homeは前述のとおりにProfessionalと同じサポート期間に延長された。(うえに期限はまだ先。)結果として特に混乱は起きていない。

だがVistaは事情が異なる。主に使われているHome Premium・Home Basic・Ultimateは(執筆時点で)約2カ月後にサポートが終了してレガシーOSとなり、Business(とEnterprise)のみがサポートされ続けることになる。サードパーティーが今後Vistaをどう扱うのか(新規のソフト、あるいは今のソフトがバージョンアップしたときにVistaもサポートするのかなど)も含めて、これからどうなるのか不透明に見える部分が多い。早々にWindows 7などに乗り換える人はともかく、ギリギリまでVistaを使い続けるつもりの人は、Microsoftだけではなく使用しているソフトベンダーの動向も含めて状況を注視していた方がいいかもしれない。