昨日、異常行動で話題になった「タミフル」の報道が流れましたが、見出しを読むと逆の情報が同時に報道されているように見えます。
産経新聞
タミフル異常行動「服用者の方が少ない」
毎日新聞
タミフル:規制後、異常行動の割合減少 厚労省データ
具体的になぜこのようなことが起こるのか検証してみましょう。ネット上の記事は意外と早く消えてしまうので、記事はエントリの下に引用しておきます。リンク切れの場合はそちらを先にご覧ください。
さて本題に入りますが、結論だけ先にいってしまえば両者の記事は比べている数字がまったく違います。元になる数値も結論を出している数値もまったく別物なのですから、逆の結果が出ても不思議ではないのです。では具体的に何が違うのか見ていきましょう。わかりやすいように産経記事、毎日記事と呼称して進めていきます。
・結論として導き出していること
産経記事
タミフル使用者の方が不使用者よりも異常行動を起こす確率が低い
毎日記事
タミフルを規制したあと、異常行動を起こす確率が減った
・元にしているデータ
産経記事
「厚生労働省の疫学研究班」の1万人を対象にした調査
毎日記事
「厚生労働省の研究班」のデータ
※研究班の名称は不明で上記のものと同じなのかは不明(産経記事は分担研究者、毎日新聞は研究班班長と出ている名前が違うためこれから断定することもできず。)
・対象年齢
産経記事
18歳未満
毎日記事
30歳未満
・結果を導き出すために使った調査対象
産経記事
昨年冬にインフルエンザと診断された18歳未満の10,316人
(実数)
毎日記事
2006年10月1日~2007年9月30日までにインフルエンザにかかったと推計される30歳未満の約930万人
(推計値)
・何と何を比べているのか
産経記事
10,316人の調査人数の中から
タミフルを使用したグループ
と
タミフルを使用しなかったグループ
を比べている
毎日記事
2006年10月1日~2007年3月20日(10代のタミフル原則使用禁止前)
の重度の異常行動を起こす割合
と
2007年3月21日~2007年9月30日(10代のタミフル原則使用禁止後)
の重度の異常行動を起こす割合
を比べている
見てのとおり両者の数値にはほとんど共通点がありません。これでは比べること自体になんの意味もないといえるでしょう。
それでは記事の質といいますか、突っ込みどころについてはどうでしょうか。産経新聞の記事には特に気になる点はありません。10代のインフルエンザ患者がタミフルによって異常行動を起こすか、についてある程度の統計学的な判断材料になるといえると思います。
よくわからないのは毎日新聞の記事です。
タミフルが原則禁止になったのは10代(10歳~19歳)なのに、持ち出しているデータは30歳未満。比べている期間はインフルエンザが流行する期間(10月1日~3月20日)と、しない期間(3月21日~9月30日)。年をまたいで同じ期間で比べるならわかりますが、流行期間と非流行期間を比べてもあまり正確な比較といえない気がします。ましてや、タミフルの使用に制限がない世代も含めているのに、異常行動発生率が落ちているからタミフルの禁止は異常行動減少に効果があった、と推測するのはどうにも乱暴な理論展開でしょう。(もちろんそのように直接的に記事に書かれているわけではないですが。)全体的にどうもあまり参考になるようなデータには見えません。
元になったデータがわからないので何とも言えませんが、もしかしたら両者の元になったデータは同じなのに、バイアスがかかってまったく正反対な記事になったのかもしれません。(要するに都合のいいデータの部分をつまみ食いする。)こういう事態になった場合は、結局最後は自分で判断するしかないということになりますね。個人的には産経の方がより「不自然」に感じなかったという結論です。
産経新聞
『タミフル異常行動「服用者の方が少ない」』
飛び降りなどの異常行動の報告が相次いだインフルエンザ治療薬「タミフル」について、厚生労働省の疫学研究班(分担研究者・広田良夫大阪市立大教授)は18歳未満の1万人を対象にした調査の結果、「タミフル使用者のほうが非服用者に比べて異常行動は少ない」とする調査結果をまとめた。調査結果は、25日開かれた薬事・食品衛生審議会安全対策調査会に報告された。調査会は、他の調査や実験結果がそろってから最終結論を出すが、「服用の有無にかかわらず異常行動への注意」を呼びかける方針。
厚労省は「原則禁止」としている10代への処方に関しては「調査会の最終的な結論がでるまで現在の措置は続ける」(安全対策課)としている。
調査は昨冬に全国約700の医療機関でインフルエンザと診断された18歳未満の1万316人分が対象。過去に行われた調査では最も大規模で、罹患(りかん)者や医師らから症状や異常行動の有無などのデータを集めた。
調査結果によると、7870人がタミフルを服用。服用後に幻覚、幻聴などの異常行動がみられたのは700人で、そのうち、飛び降りなどの事故につながる危険行動が出たのは22人だった。
一方、タミフル投与前に異常行動が出た人は285人、危険行動は9人。タミフルを全く投与しない患者にも異常行動が546人、危険行動が16人で報告された。
使用の有無で異常行動のリスクをみると、「タミフル投与者のほうが低い」という結果が出た。また、危険行動の例に絞って分析すると、使用の有無で差はなかった。
毎日新聞
『タミフル:規制後、異常行動の割合減少 厚労省データ』
服用による異常行動が指摘されているインフルエンザ治療薬「タミフル」に関し、10代の使用が原則禁止された今年3月以降、患者の飛び降りや走り出しといった異常行動の発生率が3分の1程度に低下したことが分かった。厚生労働省の研究班が今月、同省に示したデータなどで判明。タミフル服用と異常行動の因果関係を示す重要なデータになる可能性もあり、研究班は詳細な分析を始めた。
研究班は昨年から、全医療機関を対象に「突然走り出す」「飛び降り」「徘徊(はいかい)」「激しいうわごとや寝言」など重度の異常行動を起こした患者数や年齢などを調べ、今月16日、厚労省に報告した。
それによると、昨年10月1日から「原則禁止」になった今年3月20日までの約半年間に、重度の異常行動をとった患者は30歳未満で93人いた。このうち「突然走り出す」か「飛び降り」に該当したのは55人だった。
国立感染症研究所(東京都)のデータによると、この期間の30歳未満のインフルエンザ患者は推計約600万人。重度の異常行動を起こす割合は、患者10万人あたり1.55人、「突然走り出す」「飛び降り」の発生率は同0.92人だった。
一方、10代のタミフル服用が原則禁止となった3月21日から9月30日までの約半年間で、重度の異常行動を起こした患者は35人。うち「突然走り出す」「飛び降り」は12人だった。この期間のインフルエンザ患者は推計約330万人で、重度の異常行動は10万人あたり1.06人。「突然走り出す」「飛び降り」は同0.36人の割合で発生していたが、禁止前に比べてほぼ3分の1に減った。
研究班班長の岡部信彦・国立感染症研究所感染症センター長は「禁止後に飛び降りなどの率が減ったのは事実だ。タミフルと異常行動の因果関係は今後の調査も含めて判断したい」と話している。【高木昭午】
岡山大大学院の津田敏秀教授(疫学)の話 飛び降りなどの絶対数は、インフルエンザ患者の減少を考えても、原則禁止後に大きく減っている。タミフルを処方された患者の割合が減ったためと考えられる。詳細な分析のため、異常行動のない患者への処方率について、禁止前後で変化を調べるべきだった。
【ことば】タミフル 01年に発売され、国内では今春までに世界の8割近い約3500万人が使用した。一般名は、リン酸オセルタミビル。10代の服用者を中心に、マンションから飛び降りるケースなどが相次ぎ、厚生労働省が今年3月、「元気な10代は服用しなくても治る」として、10代患者への使用を原則禁止にした。だが「服用と異常行動の因果関係は不明」としており、現在複数の研究班が調査にあたっている。
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