初心者が考えがちな「Linuxの普及しない理由」 - 狐の王国を読んで。
2chあたりで何年も前から散見され続けてるのであらかじめ突っこんでおこうかという気になった。
- キーバインドがWindowsと違う
- Windowsアプリが動かない
- インストールが難しい
- ドライバが少ない
- コマンドラインで操作しないといけない
- 設定が初心者には難しい
つまりサーバ用途などではなく、普通に使うデスクトップやノートPCでのLinuxの利用がなぜ進まないのかという話です。上記の理由自体は間違っているとは思いませんし、当然これらが一因にはなっているでしょう。
ただ、私が思うにもっと根本的なところに普及が進まない理由があると思っています。実際問題として、上記の理由はあくまで「Linuxを使い始めたとき」に問題になることですからね。一般的には「使い始める」というところにすら行っていないのですから。
1.Linux搭載PCが売っていない
とにもかくにもここが一番のネックでしょう。だって売ってないんですから。いや、確かに一部のモデルには用意されている場合もあります。ただ、決して一般的でないのは間違いありません。
通常、メーカー製PCを買おうとするとき、WindowsかMacかという選択肢はあります。量販店でもネット通販でもいいのですが、買おうと思えばいくらでも選択肢があります。しかし、Linuxという選択肢は元から選びようがありません。だってラインナップにないのですから。つまり、元から普及しようがないのです。
これは言ってみれば「シャッターが閉じているのに、客が来ないと嘆いている店」みたいなものです。客を呼ぶにはまず「シャッターを開ける」動作、つまり人が入ってくるルート(*1)を確保しなければ話になりません。
([*1]今回の話の場合は、利用者を増やすことができる商品。つまりLinux標準搭載PCが普通に売られること。)
本気でLinuxを一般利用者に広めたいなら、最低限どのメーカのどのモデルを選んでもLinuxタイプを選択できるぐらいにならないと無理でしょう。できれば「Windowsマシンの横に並んで、Linxuマシンのデモも普通に行われる」ぐらいじゃないと駄目だと思いますが、これはあまりにも非現実的ですね。
Linuxって自分で導入するものじゃないの?
見出しのままの意味なのですが、「自分で(ダウンロードして)インストールすればいいよ、無料なんだから。」と考える方もいるでしょう。確かにそれは「正しい」のですが、だからこそ普及しないんですよね。
というのも、大部分の人にとってPCというのは「買って(自分の使うソフトを入れたら)すぐ使える道具」でしかないのです。自分でOSを入れる(入れ替える)なんて、一部の好事家がおこなうマニアックな行為でしかありません。これはインストールが簡単とか難しいとかそういう話ではなくて、単純にOSインストールというハードルがかなり高いということです。
Windowsの再インストールならまだやったことある人が多いでしょうが、Linuxとなると経験者はとたんに少なくなるでしょう。必要に迫られているわけではなく、触ったこともないOSをわざわざ手間暇掛けてインストールする、というハードルを越える人が一体どれだけいるのか?と考えれば答えは自ずと出るはずです。もちろん何らかの目的があったり、趣味なら別(*2)でしょうが。
([*2]実際に私も趣味でVirtual PCやVM WareにLinuxを入れて遊んでいるので。)
2.メーカサポート(体制)がない
1.の話にそのまま繋がるのですが、WindowsマシンにLinuxを入れれば当然サポートはなくなります。ドライバや各種ソフトも入っていたWindowsに対応したものしか置いてない(ダウンロードできない)ですし、いわゆる「想定外」の使い方ですから、電話やメールなどの対応もしてくれないでしょう。中上級者ならまだしも、初心者にとってこれは大きな問題になるはずです。
また、周辺機器やオプションを買うときも問題になるはずです。PCの周辺機器のほとんどは「Windows対応」です。実際はLinuxのドライバが入手できて「動く」ものは多々あるでしょうが、用意されたドライバやソフトでなければ機能が100%引き出せないという事態は十分あり得ます。また、上記のPCそのものと同じように、上手く動かなくてもメーカサポートが受けられる可能性はかなり低くなります。
要するにほとんどのものが「無保証」になってしまうのです。日本では一般向けのほとんどのPCや周辺機器はWindows(+Mac)で動くことが前提となって売られており、売る側として「Linuxで動かす」ことはほとんど考えられてない、と言ってもいいでしょう。
このような状態では、Linuxをインストールして使うこと自体が一種の「バクチ」になってしまいます。
3.情報が少ない
これは単純に知名度がWindowsより低く、「名前も知らない」「名前は聞いたことがあるが何かは知らない」「OSということは知っているがそれだけ」という意味も含みます。知らなければ使い始めるも何もありませんし、当然選択肢にも入りません。
ただそれとは別に個人的にLinuxを利用し始めて思ったのが、トラブルを解決するための情報を集めにくいということです。当然個人でLinuxを使っている人はWindows利用者より少ないのですから、当たり前といえば当たり前です。しかし、初心者にとってこれはボディブローのように効いてくる大きな問題です。私自身は単純にWindowsの方が馴れているというのもあるのですが、情報の少なさから問題が起こったときに解決するまでかなり時間がかかることがよくありました。
また何とか関連するような記事を発見できたとしても、その手の情報を載せている方は「わかっている人」が「わかっている人向け」に情報発信していることが多く、初心者が読んでもさっぱりわからないということも珍しくありません。Windowsのトラブルシューティングなら「手取り足取り操作法まで書いてあるヘルプ」がよく見つかるのですが、残念ながらLinuxだとそこまで親切な情報はあまり存在しません。
それと、これも2.の話と繋がるのですが、Windowsなら存在するメーカのヘルプが存在しないのも大きいといえます。例えばエラーメッセージで検索などおこなった場合、検索結果に出てくるのは個人サイトもさることながら、メーカがユーザ向けに用意しているヘルプも多く引っかかってきます。これはそのメーカのハードやソフトを使用してない人でも、結果として役に立つことが多々あります。
しかし前出のとおりメーカ製PCはWindowsなので、当然Linuxのヘルプは存在しません。結果として、Web上に存在するLinuxのヘルプ(テキスト)の数は、Windowsに大きく水をあけられています。
4.ディストリビューションが多すぎる
Linuxをよく知らない方のために先に説明しておくと、ディストリビューションというのはLinuxの配布形態、つまりパッケージのことです。WindowsでいえばインストールCDやリカバリCDみたいなものですね。ただイコールで結ばれるほど同じものでもないので、あくまで「似たようなもの」と思ってください。詳しくはWikipediaなどを読んでみることをお勧めします。Linuxディストリビューション - Wikipedia
で、これがなぜ問題になるかというと、Linuxには「これがLinux」と呼べるものが無いんです。Linuxを使い始めようと思ったら、まず「どのLinuxを使うか」から考えたり調べたりしなければいけません。日本で比較的メジャーなところでもUbuntu、Fedora、Debian、Vine Linuxなどの種類があり、これらは「名前だけが違う」ようなものではなく、中身も異なります。一言に「Linux」といっても「LinuxというOS」がそのまま存在するわけではないのです。
これがWindowsだとしたら、2008年9月現在に選ぶとなるとすでにWindows Vistaしか選択肢はない(*3)といってもいいでしょう。もちろんHome PremiumだとかBusinessだとかバージョンはいくつもありますが、それでも機能が増えたり減ったりサポート期限が違うだけで、極端に中身が違うわけではありません。
([*3]自作PCならまだ問題なくXPを選べますが。)
さらにこの状態は3.の問題をさらに深刻にしています。ただでさえ少ないLinuxの情報が、ディストリビューションごとに分かれてしまっているのです。つまり、「Fedoraの情報を探しているのにUbuntuの情報しか見つからない」というような状態が起こりえます。「同じLinuxなんだから似たようなものだろ」と考える方もいるでしょうが、これがディストリビューションごとに大小様々な違いがあって、他の情報がそのまま使えるとは限らないのです。(*4)
([*4]個人的な体験としては使えない場合の方が多い。)
この問題はなるべくメジャーなディストリビューション(*5)を選ぶことによって回避しやすくなりますが、マイナーなものを選んだ場合はかなり悩まされることになると思います。
([*5]2008年9月現在ならUbuntuが一番ホットで情報も多いようですね。)
5.日本語環境の不完全さ
これは各種ドキュメントにもいえますし、OS内部のローカライズという意味も含んでいます。要するに英語を見なければならない機会が増えます。現行のWindowsなら完全に英語の画面に切り替わってしまうのはブルースクリーンぐらいしかないかもしれませんが、Linuxだとかなりあっさりと英語の設定画面やソフトに切り替わってしまいます。さらにヘルプとなると日本語化されいる方が少ない状態です。「日本語環境」と思って使っている人が見たら多分面を食らうでしょう。
また、Windowsならマイクロソフトが(実際に役に立つかは別として)Web上に機械翻訳でも「とりあえず」日本語のオンラインヘルプや技術情報などの各種ドキュメントを公開していますが、Linuxの日本語環境はお世辞にも充実しているとはいえません。運良く日本語の解説や記事が見つかればいいですが、そうでなければ英語のドキュメントをそのまま読むか、翻訳に掛けるところから始めないといけません。
これではお世辞にも「初心者にもお勧め」とはいえませんね。
LinuxはWindowsの代替え品か?
とりあえず理由を5つ並べましたが、根本的な要因となっているのは1.でしょう。後の4つは「利用し始めた後に問題になる」という話で、ほとんどの人はLinuxを使い始める・選択するという時点にも至っていないのですから、それ以前の問題です。
ただそもそもの話として、Windowsの代替えとしてLinuxを見るのは間違っているのではないかと思います。言及元のエントリにも書いてありますが、Windowsと同じがいいならWindows使えばいいんだよ
というのはまさにその通りで、WindowsがいいならWindowsを使えばいいんです。
Windowsは今現在圧倒的なシェアを誇っているのですから、そのシェアを奪いたいなら「Windowsとまったく同じ」ですら駄目です。今現在Windowsを使っている人に大きなメリットを示さないといけません。「頑張ればWindowsと同じことができる」ではなんの意味もないんですよね。
OS自体が無料というのは確かにメリットの一つですが、普通にPCを買えばWindowsの値段は最初から値段に含まれているので、大概の人はその部分を気にはしていないでしょう。OS無しやLinuxタイプが存在して価格の明確なアドバンテージがあれば別ですが、そもそも用意されていないので気にする機会もないでしょうから。
おまけ - LinuxでWindowsのソフトを動かす方法
私はWindowsがメインでLinuxはたまに触って遊んでいる程度なので使ったことがない(*6)のですが、Linux上でWindowsのソフトを動作させる手段はすでに用意されています。しかもエミュレータではなく、ネイティブで動作するとのこと。「あの」Internet Explorerですら動作するとのことなので、完成度が高ければWindowsなんていらないという人も結構出てくるかもしれませんね。
([*6]WindowsのソフトはWindowsで動かせばいいため。)
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