ネットで許されないことがテレビだと許されると考える不思議

テレビでは許されるのにネットでは許されない不思議:NBonline(日経ビジネス オンライン)を読んで。

 ネット上で話題になるマーケティング上の「炎上」事例は、実は担当者の方々からすると、これまでマスメディア上で行っていた手法をそのまま利用したケースが多く、初期に批判が出てきてもなぜ批判されているのか理解できないため、さらに対応の失敗につながってしまうケースもあるようです。

~中略~

 まずは、企業がプロのライターなどにお金を払い、一利用者のフリをしてブログを書かせていたというケースがあります。

~中略~

 また、企業がブロガーなど利用者自身に、お金や製品を渡してブログを書かせていたことが分かり問題になったケースもいくつかあります。

~中略~

 実は、上記の炎上事例のようなマーケティング手法は、これまで別の媒体で当然のように行われてきた手法と似ています。

テレビでは許されるのにネットでは許されない不思議:NBonline(日経ビジネス オンライン)

要するに今までTVなどで使われてきた手法をそのままWebに持ち込んだため「炎上」が起こると書かれているのですが、これは違いますよ。これじゃあたかも上記の方法をTVでやるなら問題ないと読めますが、そんなわけがありません。もし上記のやり方を「そのまま」TVに持ち込んだら、発覚した場合に明らかに問題になります。本当に当然におこなわれているのですか?

そもそも上記の文章はTVとWebという媒体の差を無視しています。TV番組とWebサイト(Blog)では根本的に作りが違うのです。

ブログマーケティングが失敗した原因は何だったのか?

早速例に挙がっている例を個別に見てみましょう。

「私は一般人です」とのたまう企業Blog

 まずは、企業がプロのライターなどにお金を払い、一利用者のフリをしてブログを書かせていたというケースがあります。米ウォルマートの「Walmarting Across America」というブログの事例や、日本ではソニーの「ウォークマン体験日記」の事例が有名でしょう。

 どちらのケースも、最初は一利用者のブログとして運営されていたものが、ほかのブロガーや読者の追求の結果、企業運営であることが発覚し、多くの批判が集中する形でブログの記事を削除したり閉鎖したりという経緯をたどっています。

テレビでは許されるのにネットでは許されない不思議:NBonline(日経ビジネス オンライン)

この件で重要なのは最初は一利用者のブログとして運営されていたものが、ほかのブロガーや読者の追求の結果、企業運営であることが発覚という部分です。要するに単なる企業の宣伝Blog(提灯Blog)を、あたかも無関係な一般人が書いているように見せかけているわけです。これは明確な「騙し」です。

もしこれらのBlogに最初から「このBlogは○○(企業名)の広報Blogです」とトップに書いてあれば、まったく問題にならなかったでしょう。読み手は最初からその情報を考慮して内容を受け入れますし、商品に対する絶賛がひたすら並んでいても別に不思議には思いません。広報・公式Blogというのは元々そういう物だからです。

またただ単に自社製品を持ち上げるだけまだしも、上記のソニーの「ウォークマン体験日記」では、間接的にライバル企業を叩くという行為までしています。一般人のフリをした企業Blogが隠れてこういうことをしているのですから、頭が痛いどころの話ではありません。(*1)これで叩かれない方がおかしいと私は思いますね。
([*1]例え外部に委託していたプロモーションだとしても、発注元であることには変わらない。)

商品・サービスのレビューをします!(ただし金は企業から出る)

次はBlog自体は企業運営ではないが、「記事が広告だった」というケース。

 また、企業がブロガーなど利用者自身に、お金や製品を渡してブログを書かせていたことが分かり問題になったケースもいくつかあります。

 このケースでは、米マイクロソフトが「Windows Vista」搭載パソコンを影響力の強いブロガーに配布してトラブルになった事例があります。日本でも女子大生ブログへ報酬を渡したクチコミマーケティング事例がNHKで紹介された結果、炎上した事例があります。

テレビでは許されるのにネットでは許されない不思議:NBonline(日経ビジネス オンライン)

これも先ほどの例とあまり変わりません。「お金や商品を受け取って書かれている」レビューは、クチコミというより極めて宣伝・広告に近い存在といえるでしょう。読者は判断基準となる重要な情報を隠され、結果として騙されて広告を読むことになるのです。お金ではなく商品自体を受け取っている場合は「完全に広告」とまではいえませんが、それでも「代金を支払って買った商品」のレビューに比べれば大きく違う(*2)のは間違いありません。
([*2]無料でもらった物と買った物では価値が異なるのは珍しいことではない。「買うほどではないが、タダなら良いか」という物はいくらでもある。)

これも先ほどの例と同じで、「お金をもらって書いている」「商品自体は無料で提供された物」と事前に知らせておけば問題なかったでしょう。前者なら「広告・宣伝だな」とすぐにわかりますし、後者でも「無料でもらった商品に対する判断だ」と理解することができます。

どちらの例にしても、結局は一番重要な部分を隠しているからこその問題といえるでしょう。コンプアライアンスだの企業責任だのと厳しくチェックされる時代に、「広告だと知らせない広告」平たく言えば「サクラ」を仕込むから問題になるのです。騙されれば誰でも腹が立ちます。マーケティング担当者はそんな簡単なことも理解できないのでしょうか?私はそっちの方が理解できません。

TVとWebは何が違うのか?

このエントリを書くきっかけとなった記事には以下のように書かれています。

 実は、上記の炎上事例のようなマーケティング手法は、これまで別の媒体で当然のように行われてきた手法と似ています。

テレビでは許されるのにネットでは許されない不思議:NBonline(日経ビジネス オンライン)

まずおかしいのは、TVならやらせや騙しは許されるのかどうかということです。

「ドキュメンタリー」や「ノンフィクション」、「ニュース」と銘打った番組が嘘まみれなら問題になるでしょう。視聴者はそれを「本当のこと」少なくとも「嘘やフィクションではない」という前提で見ます。それ自体がドキュメンタリーなどではないバラエティ番組でも、かの有名なあるある大事典のように捏造した嘘のデータを放送すれば大きな問題になります。「視聴者に勘違いさせる形での嘘」はTVだろうが何だろうが問題になるのです。

逆に元からフィクションであるドラマなどは、番組の最初や最後に「この物語はフィクションであり~」という文言が必ず放送される形になっています。明確に視聴者に対して「本当の話ではない」と周知しているわけです。これはすでにただの「お約束」になっている部分もあるでしょうが、一つの判断基準になることは間違いないでしょう。

TVはスポンサーがいるのが「当たり前」

TVとWebの大きな違いとして、NHK以外の民放はほぼ必ず何かのスポンサーがいることが前提となっています。わざわざ書くまでもなく、番組の最初と最後に「提供」という形でスポンサーが放送されますし、番組の途中にCMが流れます。発信する情報に広告費というお金が絡んでいるのを隠すどころか、大々的に発表しているわけです。

これは先ほどのBlogの形を借りた広告であるステルスマーケティングとは完全に逆です。元々隠していないのですから、騙すも何もありません。当然番組自体はスポンサーの影響がありますし、お金を出している企業の意向が大きく反映されることも多いでしょう。しかしながら、視聴者は元からそれを知っているので別に問題はありません。最初からそのことを考慮できるからです。

また、大概の場合において途中で流れるCM、つまり広告は「広告と明確にわかる形」で放送されます。番組の流れとは大きく違う場合が多いですし、例え雰囲気が似ていたとしても15~30秒でまた別のCMに切り替わるからです。(*3)視聴者はCMをCM(広告)ときちんと認識できます。
([*3]放送時間が午前中や昼、または地方の番組などで画面が切り替わらない「番組内CM」もよくありますが、それでも普通はCMと判断できるはず。)

情報を公開せよ 話はそれからだ

Blogマーケティング(ステルスマーケティング)における炎上は、「広告」と明確に判断できる情報が公開されているかどうかで発生するか否かが決まっているといえるでしょう。結局のところ、以下の二つが明確に守られているかどうかということです。

  • 読者を騙さず運営元をはっきりする
  • 広告は広告ときちんと明示する

TVだと問題が起こらないのは、視聴者が「番組(TV)はスポンサーの広告費で運営されている」ことを知っていますし、「広告は広告ときちんと判断できる」ようになっているからです。この前提を抜きにして、TVはOKだけどWebは駄目という雑な話をされてもしょうがありません。Webだと隠すことが可能な「スポンサー」は、TVだと元から隠しようがないのです。従って、少なくともステルスマーケティングが原因のような炎上はTVでは起こりようがありません。(*4)
([*4]単純に「情報が追いにくい」のと「炎上対象がない」というのも当然ある。)

読者が知っているか、知る機会を与えているか。これが一番重要なところですね。「騙された」と人が思うとき、そのネガティブな感情が炎上に向かうのですから。

おまけ

最後に私が読んでいるBlogで「お金をもらっている」と明確に表示しているサイトを紹介します。このBlogのようにきちんと情報公開していれば、元から炎上なんてするわけがないんですけどね。

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Geekなぺーじ : MSN相談党のブログパーツを貼り付けました