タダでも文句はいいなさい

無料で利用できるWebサービスにトラブルが発生したとき、サポート掲示板などにトラブル報告や苦情が寄せられます。これ自体は普通の光景なのですが、同時にこんなコメントが寄せられるのもよく見ます。

「タダ(無料)なんだから文句を言うな」

一見正しいことをいっているように見える人もいるかもしれませんが、私は同意できません。無茶なクレームを寄せる人は論外ですが、サービス自体が正常に稼働していないなら文句を言っても一向に構わないはずです。なぜ無料だと遠慮する必要があるのでしょうか?

無料か否かは問題ではない

Web上には様々な無料サービスが存在します。まず真っ先に思いつくのがGoogleなどの検索エンジンでしょうし、Yahoo!のようなポータルサイトとして総合的なサービスを提供しているところもあります。ここで使用しているFC2のようなBlogサービスも無料で使用できるサービスの一つですね。

それではこの手のWebサービスはボランティアでおこなっているのでしょうか?

いえ、そんなことはありません。企業としてきちんと運営され、収益を上げるためにサービスをおこなっているのです。別に親切心で運営しているわけではなく、営利活動としてのサービスのはずです。何も利益が出ないなら企業としてやっていくことは不可能ですからね。(ちなみに赤字かどうかは関係ありません。利益が出ているから営利、赤字なら奉仕作業ってことはないですからね。)

要するに、有料か無料かというのはビジネスモデルの違いでしかないのです。サービス自体に課金し利用者にお金を払ってもらって利益を出すか、サービスを無料にして別のところから利益を出すのかという話です。企業にとっては利益が出るのかどうかが問題であって、結果的に黒字になればユーザーの財布からお金が出ていても、別のところからお金が出ていても関係ありません。

企業の「目的」は当然ながら利益を追求することです。(実際は他にもありますが、今回は関係ないので省略。)サービスの提供方法はそのための「手段」です。「目的」を達成するために、個々の企業が適切だと思った「手段」を選んでいるわけです。有料か無料かは、あくまでその「選択肢」に過ぎないのです。

なぜ無料でサービスをおこなうのか?

最初から「有料」のハードルの高さ

無料のサービスはこちらが払うコストがないため、あたかもサービスを「利用させてもらっている」という感想を抱きがちかもしれません。現実世界での無料サービスは何かの有料サービスにひも付けられていることが多く、純粋に無料でのサービスはほとんどありません。その印象をそのままネットにも持ち込んでしまうからでしょう。

しかしながら、ネット上に話が移るとこの現象は逆転します。まず課金ありきのサービスは少なく、利用料がかからないサービスを探す方が楽だといえるでしょう。大概のことは「無料」でおこなうことができます。(正確にはネットを使用するコストはかかっていますが。)

ではサービス利用料を「無料」にするメリットはどこにあるのでしょう?単純なことですが、一番の目的は「サービス利用者数を増やしやすい」ということになると思われます。

近年大成功したWebサービスの一例にmixiがありますが、もしこれが最初から有料サービスありきで開始していたらどうだったでしょう。果たしてここまで急速に利用者を増やし、大成功できたでしょうか?「試してみたいと思ったが有料だからやめる」とか、「支払いシステムが信用できないから試す気にもならない」という事態は十分にあり得たでしょう。

そもそもの問題として、ネット上での決済は現実世界に比べかなり不利な位置にあります。主な支払い方法として「クレジットカード」「プリペイド」「振り込み」「代引き」などがありますが、どれも一長一短な特徴があります。財布を持ち歩けば済む現実世界と違い、ネット上では利用者からお金を徴収するのはなかなか骨が折れるのです。(「サービスは無料」という考えが広く広まっているのも一つの原因。)

無料サービスでユーザーを釣れ!

いくら優れたサービスでも、誰にも認知されず話題にもならなければひっそりと終わってしまうだけです。また、同じようなサービスがあったとしたら、ほぼ間違いなく無料サービスの方が人が集まって話題になるでしょう。無料サービスのオプションとして有料サービスをおこなうタイプはよくありますが、それにしてもまずはサービスを使い始めてもらわないと話になりません。

ネットの特徴として、人気が集まるところにはますます人気が集中する傾向があり、成功すれば利用者がさらなる利用者を呼び込むという好循環に至ります。また、一度デファクトスタンダードとしての地位を築けば、それだけ優位に立てるという現実もあります。(例えば今新規にYahoo!と同じサービスを開始しても、Yahoo!に取って代われるわけではない。)

無料サービスでユーザーを囲い込み、それによって(同じサービスや違うサービスで)利益を上げるのは極めて一般的な経営手法の一つです。無料でのサービスは別に利用者に感謝して欲しいからではなく、きちんと目的がある「利益追求」の行動に過ぎないのです。(個人による善意のWebサービスもまた多数存在しますが、それはまた別の話。)

基本料金が無料でゲームのアイテムを販売するオンラインゲームは、まさにこのビジネスモデルといえるでしょう。また、現実世界でもスーパーなどで赤字覚悟の特売商品で客を呼び寄せて、その他の商品を同時に買ってもらうことで利益を上げる仕組みだってあります。「無料」や「特価」にはいつの時代も人間は弱いものなのです。

まとめ

企業の無料Webサービスは別に善意によるものではなく、あくまでサービス提供方法の一つです。有料であろうがなかろうが利用者が客であることは変わりませんし、無料でも質が悪い駄目なサービスはそれなりの評価を周囲から受け、評判は下がっていくでしょう。

システムやサービスに不具合が出たら、それはきちんと苦情という形で報告するべきです。それがサービスの早期の復旧に繋がるでしょう。「自分だと(いわれないと)不具合に気がつかないサービス」って結構あるのです。

有料か無料かで提供されるサービスの種類や質に違いがあるにせよ、それによって「無料だから黙ってろ」に繋がる要素はありません。ましてや不具合が出たときになぜユーザー側が自分で「遠慮」する必要があるのでしょうか?私にはどうにも理解できないのです。(サービス提供側が自分でいうならまだ「理解」はできますよ。「納得」はできるかは別ですが。)

優れたサービスか否かは有料か無料かで決まるのではありません。例えばGoogleのサービスは大部分が無料で使えますが、その質も一級品です。有料か無料かで物事を判断するのは、視野が狭くなる可能性を大きく含んでいると私は考えています。